校長会の研究 第12回   2001.12.15
校長会の最近の動向
 〜校長会
人事要望にみる校長会の機能



■校長会の親睦活動と福利厚生活動
 県高校長協会の下部組織である地区高校長協会(県北・水戸・県東・県南・県西の5つ。各々第1通学区から第5通学区に対応)が、本年4月中旬に開催した総会において一斉に規約改正をおこない、会の「目的」から「親睦」の2文字を抹消した件については、さきに見た通りである(本研究第11回)。
 県高校長協会本体も、5月17日に水戸市の県立青少年会館で開催した全体会で、同様の規約改正をおこなった。すなわち規約第二条(目的)の「本会は、茨城県高等学校教育の振興と会員の機能向上を図り、あわせて相互の親睦を深めることを目的とする。」とあるうちの傍線部分を削除した。
 本研究は、校長協会は基本的には校長らの「親睦団体」であり、到底「教育研究団体」とは言えないことを指摘してきた。規約改正はこれに対する反応であろう。しかし、校長協会はその内部に「茨城県高等学校長協会親睦会」を設置して、熱心に親睦活動を営んでいるのであり、批判をかわそうとして、たんに外見上親睦活動を分離したにすぎない。
 同時に校長協会は、第3条(事業)から、第5項の「会員の福利厚生」を削除し、「福利厚生」事業から撤退することにした。
 本研究は、校長協会が一部で地方公務員法にいう「職員団体」的活動をしている事実を指摘してきた。規約改正は、これに対する反応であろう。しかし、「福利厚生」事業から撤退するというのであれば、あわせて規約第13条第1項を改正し、8つある委員会のうち「給与厚生委員会」を廃止しなければならなかったはずだが、そちらの方はうっかり忘れてしまったようだ。

■校長の「機能」?
 校長協会は今回の規約改正で、もう一つ間違いをおかした。右の規約第二条の条文中で、本来は「会員の職能向上」であるところを誤って「会員の機能向上」と表記し、そのまま承認決定してしまったのである。
 機関誌『會誌』(年刊)の巻末に毎号掲載されてきた校長協会規約において、1990(平成2)年以来10年以上にわたり「機能」と誤記されていたことに誰一人気づかなかったうえ、今回の改正案を作成するにあたり現行規約条文・改正案条文ともに「機能」と表記して、全体会の場で満場一致で承認してしまった。ただの誤植が、とうとう規約の正文になってしまったのだ。
 次回規約改正までの当分の間(今のところその予定はないとのことであるが)、県高校長協会の会員は、みずからの「機能」の向上をめざして活動しなければならない。

■強制異動と校長会
 11月26日、県教育委員会は「県立学校長会議」を招集し、校長らに今年度の人事異動について伝達した。今年もまた人事の季節がやってきた。
 校長協会は、県教育委員会に対して毎年度「人事要望」を提出してきた。この「校長会人事要望」は、教職員人事全般に対する校長協会の組織的介入の一環であり、実質のない形式的行為ではない。
 1993(平成5)年度における強制異動方針の採用は、教育委員会の事務局たる教育庁が当の教育委員会の議決を経ないまま、翌々年度の人事方針を独断で「決定」して「予告」するという前代未聞の独走劇だった。これは、行政経験皆無の増田一也総和高校長(当時。現在県教育委員会委員長)の教職員第二課長への「110人抜き」での特進と、自民党県議団による執拗な県議会質問のもと、それらに呼応する県高校長協会の組織的圧力行使のもとでおこなわれた(本研究第4回)。

■校長会の文書開示阻止策
 昨年度、校長協会は本研究に対抗する「IT革命」の一環として、校長協会文書のペーパーレス化に踏み切り、「人事要望書」を廃止した。口頭での要望表明に切り替え、要望内容の開示阻止をめざしたのである。しかし、要望取りまとめのためのアンケート集計結果文書が条例により開示され、アンケート結果と、別の関連文書からわかった「要望事項」との内容上の食い違いが明らかになった。「要望事項」は、一部幹部の強硬意見に強く支配されて形成されたのであった(本研究第5回)。
 校長協会は昨年度の反省のうえにたち、今年度は校長協会管理委員会によるアンケート集計文書から集計結果の数値を削除した。こうして「『教員の人事に関する調査』集計結果」(平成13年6月13日)が作成されたが、従来各々の要望についてその理由も示されていなかったうえ、今回、要望の根拠となる数値も省かれたことで、あれこれの「要望事項」が漫然と並ぶだけの文書になってしまった。
 集計結果を明示して「多数意見」たることを誇示し、県教育委員会に要望事項の実行を強硬に迫るためのものが、ゆきすぎた「IT革命」によって説得力を喪失する結果になった。

■今年度の「人事要望」
 9月28日、県高校長協会は、この「集計結果」にもとづく「人事要望」を県教育委員会に提出した。県教育委員会側からは、川俣勝慶教育長以下、教育次長2名、高校教育課長、特殊教育課長など15名が列席した。校長協会からは、池田都實康協会長以下、副協会長3名と管理委員長の5名が出席した。(校長らは、任意団体=県高校長協会の活動に自分で自分に旅行命令を発して公費から旅費・日当の支給を受けた。)
 校長協会は昨年に続いて要望文書を作成せず、口頭で要望を表明した。要望を受けた県教育委員会が作成した記録文書によれば、校長協会は強制異動方針を含む現行の異動方針について、「教職員の意識の中に定着しているのでこのまま進め、引き続き趣旨の定着をはかって欲しい」としたうえで、強制異動については「趣旨に賛成の校長が多数である。基本原則に基づいて、例外措置はできるだけ少なくして欲しい。農、工、商、養教、実助にもルールの適用があっても良いのではないか」と主張した。
「趣旨に賛成の校長が多数である」と言ったところで、アンケート結果の数値も示さないのでは説得力に欠ける。(校長協会は「集計結果」の提出も取り止めた。)
 強制異動方針が「教職員の意識の中に定着している」とする根拠はどこにも示されていない。

■強制異動拡大要望
 強制異動方針は、「年齢・教科科目・男女の構成」のかたよりを抜本的に改善するとの触れ込みで導入されながら、学校による教職員構成の顕著な不均衡は、改善されるどころかむしろ拡大した。とりわけ教育困難校から、引き続き勤務を希望する経験者まで根こそぎ転出させて、甚大な打撃を与えた。現在、強制異動を手放しで礼讃する状況ではない。
 そうしたなかで校長協会は強制異動の拡大を主張し、「農、工、商、養教、実助にもルールの適用」を求めている。職業高校統廃合の進行もあって、職業教科の教諭や実習職員の強制異動など現実性がない。また、昨年度県教育委員会がとうとう芸術科教諭について強制異動対象から除外せざるをえなかったことから類推しても、1校1人の少数職種の教職員の強制異動は事実上不可能である。
 校長協会は「集計結果」文書において、強制異動以外の一般異動についても、「希望だけに限らず、通勤可能な範囲での積極的な異動を希望したい」と主張している。校長協会は、ついに、すべての異動の強制異動化を要望事項とするに至った。

■校長協会管理委員会
「人事要望」の原案を作成した校長協会管理委員会は、校長協会に8つある委員会の一つにすぎないのではない。管理委員会こそ、校長協会の心臓部である。
 メンバー24名のなかには、協会長の池田都實康水戸一高校長(教育次長/34位)、副協会長の北島瑞男水戸二高校長(指導課長/4位)と清水紀弘水戸高等養護学校長(教二課特殊教育室長/12位相当)、書記の小神野藤雄下館一高校長(教研センター課長/26位)のほか、県北・秋山和衛太田一高校長(教研センター所長/4位)、県南・鈴木忠治竜ヶ崎一高校長(39位)、県西・湯本孝下妻二高校長(保健体育課係長/37位)の各地区校長協会長らが顔を並べる(括弧内は、教育庁等での経歴と「出世ランキング」順位=本研究第9回)。これに、土浦一高をはじめ、日立二高、下妻一高、水海道一高などの校長が加わる。
 勤務先の校名を一瞥する限り、こうした人たちは協会の「進路指導委員会」あたりで教育研究に専念するのが順当に見える。しかし、これら「天下り」組を中心とする出世ランキング上位の校長らは、伝統校=進学校ポストを独占的に承継して校長協会幹部として君臨したうえで、人事管理専門部としての「管理委員会」メンバーとなり、そこから現役の教育次長や課長、課長補佐、管理主事など教育庁勤務の後輩ら(近い将来の同朋)に対して人事上の圧力を及ぼすのである。
 校長協会がみずから標榜するような「教育研究団体」ではなく、教育行政に対するロビイスト活動を主目的とする「圧力団体」であることが端的に示されている。

■教員の人事に関するアンケート
 管理委員会が作成した「教員の人事に関する調査」のアンケート用紙は、前述した5月17日の全体会の場で会員の校長らに配付された。
 各設問に対して、あらかじめ回答項目が4つないし5つ用意されている。たとえば、強制異動についての質問事項のうち「(1)異動先について」に対しては、「(ア)希望の範囲内で (イ)グループ分けの再検討 (ウ)異動先の校長に事前の打診を (エ)一部の学校への偏りを避ける」という選択肢が示されている。
 強制異動については、その存続を前提とした選択肢しか用意されず、廃止や緩和を求める選択肢はない。「趣旨に賛成の校長が多数である」という「人事要望」は、このようにして作られたものである。
 さらに強制異動については、「(4)その他全体的に」という問いに対して、「(ア)農・工・商の教諭等(実習助手・養護)にもルールの適用をして (イ)新採8年について再考をして (ウ)55歳以上でもグループ異動の対象にして (エ)広域な人事をして (オ)15年を10年にして」の5つが列挙されている。すべて、強制異動の範囲拡大や強制の度合の強化を求めるものばかりである。(ただしイは趣旨不明。)

■削除された選択肢
 このアンケートは、どのようにして作られたのか。
 全体会に先立つ5月14日、友部町の教育研修センター第5研修室で管理委員会の会議が開かれた。ここで、3日後に配付するアンケートの検討がおこなわれた。
 会議には管理委員会役員会(委員長=三輪志郎土浦一高校長〔水戸生涯学習センター課長/47位〕、副委員長=大木弘寿太田二高校長〔県体協本部/12位〕・梅澤浩水海道一高校長〔101位〕、書記=小倉征夫協和養護学校長〔婦人会館主査/19位相当〕)から原案が提出された。しかし、この日の討議の結果、原案には重大な変更が加えられた。
 まず役員会原案中、「1 管理職の登用に関して」の選択肢のひとつ「困難校での経験・実績の評価を」が削除された。県教育委員会は公式には「困難校」の存在自体を認めず、したがって当該用語の使用にさえ神経を尖らせる。校長協会としてもそれに倣ったとも言えようが、ここではさらに深い意味がある。
 校長協会の上級幹部を独占する「天下り」組は、進学校=伝統校に集中し、「生え抜き」組の多くは困難校や新設高校の校長に甘んじている。「天下り」組の多くは、教諭として進学校に在職していた時に当該校の「天下り」組校長の手引きで教育庁入りを果たした経歴の持ち主である。進学校優遇=困難校冷遇という県教育行政の基本政策は、「天下り」組幹部の個人的利害とかたく結びついている。
 したがって、教育困難校を重視すべしという要望は、「天下り」組が取り仕切る教職員人事に対する告発、抗議になりかねない。「天下り」組のなかでもとりわけランキング上位の、教育庁中枢から天下った人たちの神経をいたく逆撫でする、きわどい選択肢なのだ。(会議の場での彼らの渋面が髣髴とする。)
 同様にして、強制異動にあたっては「専任の生徒指導教員配置校〔教育困難校のこと〕等からの該当者の希望を優先して」という選択肢が省かれた。
 さらに、一般異動に関して、「専任の生徒指導教員配置校等の勤務者に不公平感を与えないような異動を」との選択肢から、かんじんの傍線部分が削除され、わけの分からない設問になった。

■人事手続きの秘密
「天下り」組の権益保護のための慎重な改訂手続きは、さらに続く。
「4 人事事務に関して」には、管理委員会役員会原案では当初5つの選択肢が用意されていたが、「教育庁からの異動者について、内示のとき氏名等の具体的な情報を知らせてほしい」と、「打診の後校長の内諾までもう少し時間がほしい」の2つの選択肢が削除された。
「教育庁からの異動」という場合、教諭としての異動はごく稀である。校長としての異動は、現任の校長が退職ないし転任する場合に限られるが、当該校長にはあらかじめそれを知ることには特段の意味はない。だとすると、これは教育庁からの新任教頭としての赴任のことを指す。
 したがって「教育庁からの異動」、つまり教頭の「天下り」は、赴任先の校長にあらかじめ知らされることなく実施されていることがわかる。これにいかなる意味があるのかは、抹殺されたもう一つの選択肢について検討することで明らかになる。

■校長の「内諾」
「打診の後校長の内諾までもう少し時間がほしい」というのは、少々分かりにくい文言であるが、教職員の異動に際しての現任校の校長の「内諾」と、転任先の校長の「内諾」のことを指すのであろう。
 現任校の校長の「内諾」に関していえば、校長の意見は、県教育委員会に上申する「異動に対する校長意見」としてあらかじめ表明されていた(本研究第8回)。しかし、役員会原案で「打診の後校長の内諾までもう少し時間がほしい」というのだから、「打診」の際にも、現に校長の「内諾」行為がおこなわれていることになる。つまり3回の「打診」(1月下旬、2月下旬、3月上旬)のつど、打診内容に対する「内諾」という形で校長の意向が働いているのである。
 このシステムのもとでは、校長の「内諾」と当該教職員の「承諾」の混同、そして前者による後者の蹂躙が起きやすい。「打診」に際して校長が本人の意向を確かめもせずに、本人になりかわって無断で異動案をことわったり、あるいは勝手に承諾してしまったりすることが可能なのである。
 異動先の校長の「内諾」についてはどうだろうか。異動案の「打診」を受けた教職員がそれを承諾したのに、次回の「打診」ないし「内示」の時に「破談」になったことを聞かされるという事例は非常にありふれたものである。このような場合、異動先の該当教員の、もうひとつ先の学校への異動が破談になったことによる玉突き現象として説明されてきた。しかし、これは作り話だ。事実は異動先校長の「内諾」が得られなかったための破談なのだ。
 校長たちにとって、転入者についてあらかじめ知らされるということは、すなわち当該異動に対する拒否権があるということである。逆に、知らされないということは、拒否権がないということなのだ。こうしてみると校長協会が、強制異動者について「異動先の校長に事前の打診を」おこなうよう執拗に要求し続けてきたことの本当の理由もあきらかだ。
 彼らは、たんに知りたいのではない。校長協会は、意に沿わぬ異動を拒絶し、管理職員を含むあらゆる教職員異動を意のままに操作する権限を要求しているのだ。

■「校長意見」の開示請求
 12月中旬、校長らは所属所の教職員から提出された「異動に関する希望調査書」の記載事項を「教職員の異動希望調査一覧表」に転記したうえで、「異動に対する校長意見」欄の記入作業に没頭する。
 今年3月、複数の教員から茨城県個人情報の保護に関する条例(平成5年茨城県条例第2号)にもとづいて、「校長意見」の本人への開示を求める請求が出された。県教育委員会は、次の理由で開示を拒んだ。
「人事異動作業は必ずしも個々人の希望をすべて受け入れて行うものではなく、校長がその学校の人員構成や個々人の希望などを総合的に勘案したうえで人事異動に係る意見を記述し、その意見を参考として教育委員会が行うものである。よって、この情報を開示することにより、校長が行った個々人に対する評価や考えが明らかにされ、関係当事者間の信頼関係を損なうおそれがある。また、校長は、開示されることを念頭に置いて意見を記述せざるを得なくなり、本来記述すべき適正な情報がえられなくなるおそれがある。」
 開示を求めた教員らは、非開示処分取消しを求める行政訴訟提起の前提として、県教育委員会に対し行政不服審査法に基づく異義申立てをおこなった。現在、県個人情報保護審議会(加藤栄一委員長)が事案についての審議をおこなっている。
 行政情報開示の時代潮流に逆行する県教育委員会の非開示方針は、早晩撤回を余儀なくされよう。校長らが、開示されることなどありえないとの前提で記述してきた「異動に対する校長意見」が開示される時、教職員人事全般にわたる県高校長協会の組織的介入の実態が、白日のもとにさらされることになる。      (以下次号)



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