校長会の研究 第16回  「校長」将来 続報 定期健診契約 2002.5.27

2002年度の校長人事
 2002(平成14)年4月1日付けで,34人の新任高校長が発令された。111の高校長ポストの31%に達する。平均年齢は「天下り」組が55・4歳,「生え抜き」組が57・4歳とほぼ昨年通りであった。しかし今年は56歳以下での「生え抜き」組の昇任はなく,全員が57歳(残り3年)または58歳(残り2年)であった。1999(平成11)年からわずか3年で,「生え抜き」組の昇任最低年齢が1歳上昇したことになる。
 昨年は新任者27人中16人(59%)だった「生え抜き」組が,今年度34人中24人(71%)に増加したのも,とりわけ「生え抜き」組において「短命化」が顕著であることの結果である。(グラフと平均年齢の計算からは,2度めの新任である前教育次長=稲葉節生水戸一高校長は除いた。)
 1年前の当研究(第9回)で,校長昇任待ちの行列は長くなる一方なので,いずれ59歳(残り1年)の「蜻蛉(かげろう)校長」も必至だろうと予想した。新任ではないが,今年度ついに59歳の校長の転任が発令された。吉武和治郎前鹿島灘高校長が,残り1年で,同一市内の鹿島高校に転任したのである。
 校長人事における条件がまたひとつ撤廃された。校長人事の「過剰流動化」傾向は,今後さらに進行するだろう。

行政の透明化と県高校長協会
 本研究の指摘や提言にもかかわらず,茨城県高等学校長協会の放慢な組織体質は一向に改められていない。公費依存・団費(PTA会費)依存の会計処理もそのままである。
 校長協会に対する教育行政当局の「及び腰」姿勢も従来通りである。校長らによる「出張」許可権限の濫用と公費の無駄遣いという,明らかな不正行為すら是正できないでいる。校長の出張許可願・旅行命令票・復命書・出勤簿などあらゆる公文書が開示される時代に,説明のつかない県高校長協会の用務のために,1人当り年間数十日もの「出張」がおこなわれるという異常な事態がいつまでも許されるはずはない。
 教育庁幹部から校長への「天下り」についても,是正するつもりはないようだ。教育次長・参事・課長の地位にあった者が,翌年度には校長になり,後輩たる教育次長・参事・課長から指示を受けるというのでは,行政機構の職階制原理は根底からくつがえる。
 情報公開・行政民主化の時代趨勢は押し止め難く,高校長協会が従来の活動形態を維持できなくなる日が,本県にも間もなくやってくる。その際,茨城県教育行政がその余波を受けずに済むはずがない。任意団体ひとつ満足に統制できない地方教育行政当局が,他の行政機関や県民からどのような評価を受けることになるか,よく考えてみるべきである。

校長の将来像
 校長が,1年か2年で落ち着きなく転勤する。そのうえ,「校長協会」や「高体連」などの出張で年間何十日も学校を留守にする。校長ポストの重みが,どんどん失われる。 教諭と比べて2級アップの「4級」の給与,14%(一部の校長は16%)の管理職手当,15%割増(1部は20%)のボーナスを受けながら,出張ばかりであまり学校にいない。県教育委員会は,見て見ぬふりで放置する。
 これでは,学校に「校長」はいらないと言っているようなものである。行き着く先は,校長の非常勤職員化である。「校長」は,非常勤の特別職公務員となり,週に1回,半日程度出勤し,文書の決裁などの形式的・事務的な仕事をこなすだけになる。あとは,学校行事で「あいさつ」や「講話」をおこなうだけだ。報酬は1日2万円の定額制で,月間4回勤務の月額8万円,年額は96万円。手当は通勤手当のみ。県立学校130校で人件費が年間15億円以上節約できる。これで小規模校が5,6校程度,廃校を免れる。
 校長らは残りの週6日を自由な時間として利用できる。従来通り好きなだけ「校長協会」の会合をおこなえばよい。ただし,出張旅費と日当は支給されないから自費での活動となる。年間1億円の県費旅費が削減できる。
 もちろん,「非常勤特別職の校長」といえども,ハンコをつくだけが仕事では公費の無駄使いだとの批判は避けられない。産業医が校長を兼任し,出勤に際しては職場巡視をおこない,毎月1回以上の衛生委員会出席もこなすとか,あるいは普通の会社員が校長となって,PTA役員などに限らない,普通の保護者からの要望・意見の集約に努めるなど,「実際に役に立つ校長」「皆に喜ばれる校長」を目指すことになる。

定期健診契約
 前回まで当研究は,「教頭会法規演習における労働安全衛生法違反」として,教職員の定期健康診断についてみてきたが,ここで今年度分の契約に関して報告する。
 県教育委員会(担当は保健体育課〔中村昌平課長〕の学校保健係〔仲澤進係長〕)は,今年度の教職員の定期健康診断の委託機関の決定および契約の締結において,一切の批判を受け入れず,前年通りの方法を踏襲した。すなわち,生徒等の健康診断と一括して,安価な出張検診方式を指定したうえで,県教育委員会において一括して学区ごとの随意契約方式で委託業者を割り振るというものである。
 2002年3月4日,県教育委員会建設工事等請負業者選定委員会(各課室長)は,随意契約に先立って実施される見積に参加させる業者の推薦について,保健体育課の原案どおり承認した。2年連続で医療事故を起こした茨城県総合健診協会(会長=橋本昌県知事)も,「検診方法・検診結果に安全性・信頼性がある」として推薦された。今年度は従来の3業者に加えて,あらたに2業者が見積に参加することとなった。
 3月6日付けで各業者に見積通知書が発送され,3月13日,県庁舎1階の第3入札室で,午後1時30分に第1学区,以後15分間隔で,第2学区から第5学区までの見積がおこなわれた。
 日立メディカルセンターは,前年受注した第1学区のほか,第3学区に関して見積を提出した。茨城県総合健診協会は前年受注した第2学区と5学区に関して見積を提出した。茨城県メディカルセンターは,前年受注した第3学区と第4学区のほか,第1学区と第2学区の見積にも参加したが,同じく医師会設立の取手北相馬保健医療センターが参加する第5学区だけは辞退した。新規の2業者のうち,財団法人全日本労働福祉協会茨城県支部(岩間町,1977年設立)は,5学区すべてで推薦を受けたが,第1学区から第4学区までを辞退し,第5学区にだけ見積を提出した。社団法人取手北相馬保健医療センター(取手市。1982年設立)は,第5学区についてだけ推薦を受け,見積を提出した。

圧倒的な価格差
 5業者の提出した見積単価と合計額は,一覧表のとおりである。表中の「検査項目」欄の右側の「予定価格」とは,保健体育課があらかじめ算出しておいた単価と合計額であり,見積終了まで公開されない。5業者が呈示した単価と合計額のうち,「予定価格」と同額のものには,網掛けをほどこした。昨年同様,日立メディカル,総合健診協会,茨城メディカルの3者は,ほとんどすべての項目について,「予定価格」通りの見積額を呈示した。
 これに対して,新規2業者の呈示した額は,ほとんどの項目にわたって「予定価格」と異なっており,しかもそれを大きく下回っていた。従来3業者と新規2業者の価格差は歴然としており,1人当り価格では生徒の場合で35%,教職員の場合で21%に及んだ。
 従来3業者だけが見積に参加した第1学区から第4学区までにおいては,0・1%から1・2%というわずかの価格差で契約業者が決定した。第1学区は日立メディカル,第3学区と第4学区は茨城メディカルだった(いずれも前年と同じ)。第2学区は茨城メディカルに決定した(前年は総合健診協会。当学区で2001年12月X線フィルムの取り違いがあった)。
 5業者がそろって推薦された第5学区は,日立メディカルと茨城メディカルが辞退し,ここまで契約を取っていない3業者の競争となった。総合健診協会は「予定価格」に近い4916万円を呈示したが,取手北相馬保健医療センターは1000万円以上低い約3905万を,全日本労働福祉協会は,さらに128万円低い3776万円を呈示した。

定期健診の現状と人間ドック人気
 保健体育課が職場の教職員の要望や批判に一切耳を貸さず,高値で低質の医療を義務づけるなか,2年連続で医療事故が起きた。もはや誰も責任を取らず,何らの方針変更も行わないということではすまない段階である。1990年度以来の総合健診協会の独占体制はいったん頓挫したが,これは大きな変化のはじまりに過ぎない。
 教職員の定期健康診断は,労働安全衛生法に基づき実施されるべきものである。労働安全衛生法の目的は労働災害の予防である。このことを理解せず,学校保健法に基づく生徒の健康診断のついでに教職員の健康診断を実施することにこだわる《保健体育課的手法》は,現行法体系には,到底合致しない。公務災害補償と福利厚生事業については教育庁福利厚生課が担当することとしながら,健康診断を含む労働安全衛生全般について保健体育課が誤った仕方で取り仕切る状況が続く限り,問題は決して解決しない。
 福利厚生課が担当している「人間ドック」は,地方公務員法第42条に基づく福利厚生事業の一環である。昨年度,県立学校の教職員7881人の32・5%に達する2558人が,「人間ドック」を受診した(講師を除く)。受診申込者は3407人(43・2%)に達する。「人間ドック」人気の理由が,定期健康診断のあまりのお粗末さにあることは明らかである。
「人間ドック」の場合,受診当日は職務専念義務を免除されるから,仕事を離れて落ち着いて検査を受けることができる。検査は,医療機関の建物内で検査衣に着替えたうえでおこなわれる。検査結果はその日のうちに呈示され,医師による診察や保健婦によるアドバイスもきちんと実施される。
 いっぽうの定期健診は,勤務の合間に,衛生的とは言い兼ねる学校の建物内で実施される。プライバシー保護に無頓着で,検査データは同僚に筒抜け。異常値や病名までわかってしまう。男女の分離すら不十分で落ち着いて検査をうけるどころではない。心電図測定はベッド代わりのテーブルに寝かされる。尿を入れたコップを持って右往左往させられる。無愛想な応対。結果通知は1か月も先。医師による診察はほとんど行われない(医師法違反)。 ある学校では,現場を見た産業医(健康管理医)が,あまりのひどさに仰天した。
 福利厚生課の「人間ドック」と,保健体育課の定期健診が別個に実施されるために,県費の二重支出と多額の個人負担が生じていることも見逃せない。2558人分の「人間ドック」の費用のうち,医療機関窓口での個人納入分(1人あたり9100円から1万6300円)を除く9100万円が,県費(2700万円),共済組合(4500万円),互助会(1900万円)から支出されている。共済組合の財源は労使折半だから「人間ドック」には,合計4950万円以上の県費が投入されていることになる。そして7000万円以上を共済組合掛金・互助会掛金・人間ドック受診時の個人負担金として,教職員が負担していることになる(受診しない人も負担している!)。生徒分と一括して契約している定期健診のうち,教職員分の県費支出額は6326万円である(以上2001年度分についての概算)。

定期健康診断の改善と費用削減
 定期健診は,職場ごとに教職員の要望に基づいて衛生委員会で協議し,近隣の医療機関を選定する。交代で,1日職専免扱いで受診する。法定の検査項目に加えて,いくつかの血液と尿の検査項目,眼底検査,眼圧検査,腹部超音波検査,大腸がん検査,婦人科検査を加えれば,「1日人間ドック」と同程度ないしそれ以上の水準に達する。
 追加検査のための差額が,かりに個人負担だとしても「人間ドック」のための負担と考えれば納得できるだろう。しかし,定期健診を「人間ドック」並みの水準で実施すれば,教職員7881人のうち4割以上の3407人が「人間ドック」に殺到し,くじ引きで当選者を決める異常事態は解消するに違いない。県・共済組合・互助会の財政負担は大幅に軽くなる。その分を追加検査の費用に振り向ければ,個人負担額は大幅に圧縮できる。
 医師法違反と労働安全衛生法違反,医療行為として問題外の低水準と度重なる医療事故,莫大な額の無駄遣いなど,どこから見ても《保健体育課体制》のもとでの定期健康診断は行き詰まっている。健康と医療に関する事柄である。当事者の要望・意見を無視して非人間的医療行為を強要する人権侵害は,もはや許されない。担当課の変更と定期健診の改善は,待ったなしである。
 現時点が,県教育委員会として,みずから事態の打開をはかりうる最終段階である。

    



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