校長会の研究 第17回 2002.7.15
学校
週5日制にともなう土曜課外問題研修問題 


■校長会進路指導委員会
 新聞報道によれば,完全学校週5日制の実施にともない,土曜日に「課外授業」を実施している公立高校は,全国で570校,本県では111校中30校に達する(2002年5月26日,『毎日新聞』)。
 条例上,教員にとっては土曜日は「週休日」であり,「勤務を要しない日」とされる。「勤務を要しない日」には,非常災害等,法令の定める場合を除き,勤務を命ずることはできない。しかし,教員がいなくては課外授業は実施できない。土曜日の「課外授業」が実施されているということは,「勤務を要しない日」に教員が勤務していることにほかならない。
「勤務を要しない日」である土曜日に課外授業を実施するにはどうしたらよいか。昨年度,県高校長協会進路指導委員会は,この問題に取り組んだ。
 しかし,年間3回の委員会の会合と3回の役員会に関する文書には,この問題への言及はない。昨年度進路指導委員会の書記をつとめた小竹修並木高校長の説明では,この件は「議題」としては取り扱わず,正式の議題が片付けられた後の「情報交換」の場で協議をおこなったという。そのうえで進路指導委員会は,土曜日の課外授業についての統一方針を決めることはせず,「各校の判断にゆだねる」との結論を出した。記録文書は一切作成されなかった。
 法的には不可能である土曜日の「課外授業」を実施するために,「各校の判断」でさまざまの方式が採用された。
 @ 学校として実施する。ただし,講師は予備校講師に依頼する。
 A 学校として実施する。ただし,「課外授業」を「部活動」として取り扱ったうえで,教員が授業をおこなう。
 B PTAとして実施する。学校として実施すると,様々の問題を生ずるので,PTAが実施する,という形をとる。
 C 教員がまったく個人的に実施するので学校は関与しない,という形をとる。

■勤務時間外の課外授業
 @の「予備校方式」は,進路指導委員会の塙武元・前委員長が当時校長だった鉾田一高で計画を推進したが,県教育委員会から「待った」がかかり,計画段階で頓挫した。理由は,「特定の業者に委託するのは好ましくない」というものであった。
 Aの「部活動」方式は,国語の課外授業は「文芸部」の活動,数学は「数学部」の活動等としたうえで,指導教員を部活動顧問,生徒を部員とみなすことにより,教員には「教員特殊業務手当」を支給し,事故の際には地方公務員災害補償基金による公務災害認定対象とし,受講生徒の学校事故については,日本体育・学校健康センターによる補償対象とすることができる(はずだ),というものである。(境高校の例については,5月23日,『茨城の教育 速報版』第7号参照。)
「部活動」でないものを「部活動」として取り扱って「教員特殊業務手当」を請求すれば,不正請求にあたる(県教育委員会は,「課外授業」は,教員特殊業務手当支給の対象とは考えられないとしている)。また,いざ公務災害や学校事故が発生した場合に,地方公務員災害補償基金や日本体育・学校健康センターの調査を受けることになるが,いくら「部活動」だと強弁したところで実態がともなわないものが通用するはずもない。あてにしていた補償が受けられないという事態が待っている。
 Bの「PTA方式」は,教員に勤務を命ずることは法令上不可能なので,学校として実施するという形式を断念したうえでの弥縫策である。進路指導委員会の現委員長の小竹修校長の並木高校はこの形をとった。
 小竹校長が日本体育・学校健康センターに照会したところ,PTAが実施主体であっては給付の対象とはならないとの回答があり,生徒の学校事故対策はたてられていない。教員については,民間の損害保険に加入したが,最高支払額は死亡時でも2000万円に過ぎず,公務災害補償制度と比べて圧倒的に低水準である。
 Cの「自発型」は,個人的とはいっても,管理者は了承しているのが通例である。教員はボランティア,生徒は自由参加ということで,学校事故については一切対策はたてられない。この場合も万一の際には,当事者はもちろん茨城県教育委員会も窮地に立たされるだろう。
 6月24日,県高校長協会は県立青少年会館で今年度第3回目の全体会(総会)を開催した。議題は前年度の活動の総括と,今年度の活動方針である。委員会ごとに「反省」と「方針」を記載した原案が配られたが,少なからぬ学校で問題になっている土曜日の「課外授業」についての言及はなく,何の話し合いもおこなわれなかった。

■研修問題
 この校長協会全体会に先立ち,同じ会場で「県立高等学校長会議」が開催された。こちらは,県教育委員会が主催する公的な会議である。ここで,高校教育課の村松輝美人事担当課長補佐は,長期休業期間中の教員の研修について,県民への「説明責任」を果たすため,新たに研修計画書と結果報告書の様式を定め各校に呈示する旨指示した。居並ぶ校長らは黙って聞くばかりで,質問する者はひとりもいなかった。
「研修問題」は,今に始まったことではない。本研究でも「教頭会法規演習」を具体例に挙げながら,一通り検討した(2001年5月10日,本研究第10回)。「職務専念義務免除による研修」という大妄言に固執する文部科学省初等中等教育局と,これに促された各都道府県教育委員会が,学校週5日制の完全実施を口実にして一斉に動き始めたのである。
 文部科学省は,今年3月4日,各都道府県教育委員会に対して事務次官通達(13文科初第1000号)を送付した。そのなかで長期休業期間中の教員の研修について,次のように指示した。
「教員の研修や教材研究について,例えば,学習指導の改善を図るための校内授業研究会や情報交換会,教育の視野を広げるための研修を行うなど,その充実を図ること。その際,次の点に配慮すること。
ア(略)
イ 研修の場や機会,研修に関する情報を提供するなど,教員の自主的・主体的研修を奨励・支援するよう努めること。
ウ 教育公務員特例法第20条第2項に基づく研修については,勤務時間中に職務専念義務が免除されるものであり,給与上も有給の扱いとされていることなどを踏まえ,計画書や報告書の提出等により,研修内容の把握・確認を徹底すること。」
 直後の3月8日,東京都教育委員会は都立学校の全教員に対して,教育委員会があらかじめ指定したか,あるいは「教職員研修センター」が承認した研修会・講習会については,1日のうち必要な時間の研修を承認するが,それ以外の研修会等や自宅研修については,承認するのは1日のうち4時間までとすることを通知した。そのうえで,研修報告について次のように通知した。
「研修を行った場合,研修日数にかかわらず,報告書を校長に提出する。校長は,研修の成果に関して問題があると思われるものについて,都教育委員会に協議できる。協議があった場合,都教育委員会は,問題点,指導方法等について校長に回答する」
 東京都教育委員会の方針は,計画書や報告書の提出を課すという文科省通達の線を超えて,長期休業期間中の全1日自宅研修を禁止し,半日(4時間)までしか許可しないとしたうえで,結果報告書によって研修内容のチェックをおこなうというもので,2000年度の新人事考課制度に引き続く強硬方針として全国に波紋を広げている。

■茨城県教育委員会の対応
「教頭会法規演習」で味噌をつけて以来,研修問題での沈黙を続けていた茨城県教育委員会であったが,文部科学省の圧力を受け,6月17日付けで各市町村教委と県立学校長に対して指示をおこなった(「夏季における生徒指導及び事故防止等について(通知)」義教第1101号)。
「夏休み等の学校休業期間における教職員の研修については,例えば,事前に研修計画を提出し研修承認願(原文のまま)を得るとともに,事後は,すみやかに研修報告書等の提出をするなどの手続きを踏まえて,教育公務員特例法第19条及び第20条の規定の趣旨に沿った適切な運用を図るよう指導を徹底すること」。
 茨城県教育委員会は,新しい「研修計画書・研修結果報告書参考例」を,夏休み直前の7月11日付けで(発送は翌12日,到着は翌週),各学校に送付した(「長期休業期間中における勤務時間の有効活用及び教員の研修の取扱いについて(通知)」高教第700号)。
「生徒の教育をつかさどる」(学校教育法第28条,第50条)ことを職務とする教諭などの教員は,「たえず研究と修養につとめなければならない」(教育公務員特例法第19条)ものと定められている。そして,教育行政はその条件整備につとめなければならないものとされる(第19条第2項)。文法構造上,「研修」の主体は教員である。教育行政当局は,「研修」の実施主体ではない。教員については,「授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修をおこなうことができる」(第20条第2項)との規定が置かれていることが特徴的である。
 いっぽう,地方公務員法は「勤務能率の発揮及び増進のために,研修を受ける機会が与えられなければならない」(第39条)としたうえで,「前項の研修は,任命権者が行うものとする」と定めている(第39条第2項)。地方公務員法の「研修」においては,職員(地方公務員法にいう「職員」。一般職の地方公務員のこと)は当局が行なう「研修」の受け手であるにとどまる。教育公務員特例法の定める「研修」においては教員がみずから主体的に「研修」をおこなうものとされることとは著しい対照をなす。

■文科省による研修の分類
 文部科学省と各教育委員会は,教育公務員特例法が定める「研修」を次の三類型に分類する。
 @「職務命令による研修」
 A「職務専念義務免除による研修」
 B「勤務時間外の研修」
 この分類自体が誤謬である。@ABのすべてが成り立たない。
 教育行政当局の法解釈は,この「研修問題」に限らず,その出発点から間違うことが多い。細部における法解釈の違いなどというものではなく,一番基本のところで誤りをおかす。この場合の誤謬は,二つの法令解釈の混同から発生する。
 @の「職務命令」を受けておこなわれる「研修」とは,教特法の「研修」ではなく,地公法にいう「研修」に外ならない。
 もちろん,公立学校の教員も地方公務員であるから,これに対して,地方公務員法にいう「研修」(@)を命ずることはできるが,それは「勤務能率の発揮及び増進のため」の「研修」である。「その職責を遂行するために」おこなう教特法上の「研修」とは区別される。教特法の「研修」は,職務命令を受けておこなわれる地公法の「研修」(@)とはことなる。(教特法の研修に際して出張命令が出ることがあるが,命令の対象は出張〔公務のために旅行すること〕であって,研修は命令の対象ではない。)
 Aは,個人的な資格取得などのために,「職務専念義務の免除」を受けて講習を受ける等の場合の「研修」のことである。これは,地方公務員法により地方公務員一般に許される研修ではある。この「研修」(A)は,あくまで地公法上の「研修」(@)の例外的措置であるに過ぎない。これもまた教特法が教育公務員に関する特例として定めた「研修」とは異なる。
 Bの「勤務時間外の研修」だが,職務上の「研修」の分類に「勤務時間外」のものが存在すること自体がおかしなことである。地方公務員法,教育公務員特例法のいずれの場合も,勤務時間外に職務上の行為について規定することはありえない。あえて言えば,この「研修」(B)は,右の「研修」(A)を許可された職員が,それに附随してその準備のためにおこなうという程度のものにすぎない。つまり,例外(A)の随伴物に過ぎない。当然,教特法の「研修」とは異なる。

■職務としての研修
 教育公務員特例法が定める教員の「研修」は,「教育」という中心的職務の質的な向上を目的とするものであって,それ自体もまた職務である。
「研修」は「職務」である。「職務専念義務」を免除されて職務たる研修をおこなうことは不可能である。「職務に専念する義務」を免除したうえで,研修という「職務に専念」することを求める教育行政当局の主張は深刻な自家撞着に陥っている。
 教特法上の「研修」が「職務」であることを見失い,研修は「職務専念義務」を免除されたうえで職務外の行為としておこなうものだとする教育行政当局の主張は,地方公務員法上の「研修」に関する例外的措置(資格取得などのための個人的な研修。上記A)からの連想によって生じた単純な誤解にほかならない。
 しかし,研修が職務であるといっても,任命権者(教育委員会)や所属長(校長)から命令されて,その指示通りに研修を受けるということではない。それは,地公法の規定する研修の場合であって,教特法の研修ではない。教員がみずから主体的に研修をおこなうのではなく,指示を受けた時だけ,行政当局の用意した講習を受けるというのでは,「絶えず研究と修養につとめ」ることは絶対に不可能だ。教特法の研修は,教員が自主的・主体的に取り組むことが前提になっている。
「教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修をおこなうことができる」(第20条第2項)という規定は,教員のおこなう研修のかかる独自性に即した特例なのである。

■研修は権利か?
「研修」は「職務」である以上,年休や特別休暇などの休暇の一種ではない。「研修」は「職務」である以上,時間外勤務の代償措置(いわゆる「代休」)でもありえない。
「職務」であって休暇ではなく,「代休」でもない以上,「研修」を「権利」の一種であると理解するのは適当ではない。文科省のいうように「職務専念義務免除」を受けておこなうのであれば,それを一種の「権利」であるということもできるかもしれない。しかし,「その職責を遂行するために、絶えず研究と修養につとめなければならない」という条文からみて,教育公務員のおこなう研修は「職務」そのものであり,法によって「義務」づけられたものというほかない。「義務」であるものを「権利」と言ったりしては,議論は混乱するばかりである。「研修」は「権利」の範疇には含まれない。
 教育行政当局の言う「職務専念義務免除による研修」を背理として批判し,かかる研修のとらえかたを根本的な矛盾として退ける以上は,研修を「権利」と呼ぶのは避けた方がよいだろう。

■研修に「承認」は必要か?
 研修は職務であることを確認したところで,研修「許可」についても捉え直しが必要となる。
 文科省や教育委員会がいうように,「研修」は職務ではなく,「職務専念義務」を免除されておこなうものだとしよう。この場合,次のような手続きがとられる。
 教員から校長に対して,研修をおこなうので,「職務専念義務」を「免除」してほしいという願いが出される。
 校長は,「職務専念義務」を「免除」されて研修をおこなうというのが本当か否か,また研修の内容はどのようなもので,「職務専念義務」を「免除」してまで許可する必要性・必然性があるか否か,等々を慎重に検討する。
 校長は,事前ないし事後に研修の「証拠」の提出を求める。審査の結果,研修内容がふさわしくないとか,「職務専念義務」を「免除」するほどのものではないなどの理由で,研修を許可しないということもあり得る。
 しかしながら,すでにみたように研修と「職務専念義務免除」に何の関連もなく,研修が職務であるとなれば,右の手続きはまったく意味がない。
 たとえば,教諭の職務である「授業」について,同様の手続きが必要となるだろうか。右の手続中の「研修」を「授業」に置き換えて検討していただきたい。
 職務である授業について,職務専念義務免除が問題にならないのと全く同じ理由で,職務である研修についても,職務専念義務免除は問題にならない。授業はいちいち校長に許可を得て実施するものでないのと全く同じ理由で,研修もいちいち校長に許可を得て実施するものではない。校長が授業の実施を許可しないなどということがあり得ないのと全く同じ理由で,校長が研修の実施を許可しないなどということも,あり得ない。
 研修は教育公務員特例法によって義務づけられた職務なのであって,教員には研修をしない自由はない。研修をしないという選択肢を持たない者に対して,研修の許可不許可は,到底問題にならない。
 したがって,20条2項による研修の承認とは,《勤務場所を離れること》の承認であって,《研修をおこなうこと》の承認ではない。
「授業に支障」が生ずるという理由で,《勤務場所を離れること》を許可しないことはあり得ても,《研修をおこなうこと》それ自体を許可しないということはあり得ない。研修は職務であって,職務を遂行することについての承認手続きなど,存在の余地がないのである。

教育公務員特例法
(昭和24年1月12日,法律第1号)
第19条(研修)教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養につとめなければならない。
  2 教育公務員の任命権者は,教育公務員の研修について,それに要する施設,研修を奨励するための方途その他研修に関する計画を樹立し,その実施に努めなければならない。
第20条(研修の機会) 教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。
  2 教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修をおこなうことができる。
  3 教育公務員は,任命権者の定めるところにより,現職のままで,長期にわたる研修を受けることができる。

地方公務員法(昭和25年12月13日,法律第261号)
第35条(職務に専念する義務)職員は,法律又は条例に特別の定がある場合を除く外,その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い,当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
第39条(研修) 職員には,その勤務能率の発揮及び増進のために,研修を受ける機会が与えられなければならない。
  2 前項の研修は,任命権者が行うものとする。
  3 (略)


■文科省の勘違いの理由
 文部科学省は,どうして,結びつかないはずの「研修」と「職務専念義務免除」とを結び付けてしまったのであろうか。
 文部科学省は,「職務に専念すること」と「職場にいること」とを,単純にイコールで結び付ける。
 文部科学省にとって,「職場にいること」イコール「職務に専念すること」である。
 文部科学省にとって,「職場にいないこと」イコール「職務に専念していないこと」である。
 文部科学省にとって,教特法20条2項の「勤務場所を離れて」の研修をおこなっている間は,当該教員は「職務に専念していない」ことになる。
 地方公務員法第35条の迂闊な理解が,「職務に専念する義務」を「職場にいる義務」に矮小化する結果をもたらした。これでは教特法20条2項の「研修」が「職務」であることは,到底理解不能である。教育公務員特例法が視野に入らないものだから,地方公務員法の「研修」と教育公務員特例法の「研修」の混同,というより地公法「研修」への教特法「研修」の吸収が起きる。こうして教特法「研修」が消滅する。
 文科省と教育委員会による「職専免研修論」についての検討は以上で十分であろう。
 つぎに,文科省・教育委員会が,この「職専免研修論」に立脚して提起している研修許可と結果報告の内容上の問題について具体的に検討しよう。

■研修承認のありかた
 教員が,勤務場所を離れて研修をおこなう場合,本属長(校長のことで,通例「所属長」という)がそのことを把握しているのは当然である。所属長たる校長が,所属の教員がどこにいるのかわからない,何をしているのか知らないというのでは不都合である。
 その限りで,教員が勤務を要する日の勤務時間中に,学校を離れて研修を行なう場合に,当該事業場の所属長としては,当該教員が研修をおこなっている事実とその所在する場所について,あらかじめ把握しておくことは当然である。また,事後に,研修という職務が遂行されたことを一切確認しないということも妥当ではないから,一定の確認手続きがとられることも当然である。
 まず,研修承認の要件を確認しなければならない。前述の通り,20条2項による研修の承認とは,《勤務場所を離れること》の承認であって,《研修をおこなうこと》の承認ではない。
 それでは,《勤務場所を離れること》の承認の要件は何か。条文上明らかである。すなわち,「教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修をおこなうことができる。」とあるから,承認要件は「授業に支障がないこと」である。長期休業期間中は,授業をおこなわない期間であるから,「授業に支障がないこと」は明らかであり,承認要件は容易に満たされる。
 以上の「研修承認手続き」は校長の「職務」であって,「権限」「権利」のたぐいではない。これは,「所属職員を監督する」(学校教育法第28条,第50条)という校長の職務のひとつである。
 これを「権限」や「権利」とみなすのは,研修を「権利」とするのと同様の誤解である。校長は授業への支障の有無を確認し,支障がなければ《勤務場所を離れること》を承認しなければならないのであって,授業に支障がないのに承認を与えないという選択肢は存在しない。つまり,校長には自由裁量権はない。
 承認するしないは校長の裁量に委ねられ,授業に支障がなくても他の理由をつけて承認しない権限を持つという行政解釈は,「承認」の語から過剰な意味を読み取ることに起因する幻想である。
 研修は教員の「職務」であり,研修承認(《勤務場所を離れること》の承認)は校長の「職務」である。
(こうしたことからも,校長が年間50回から100回も出張している実態は,ただちに改められるべきである。当該公署の職員の職務遂行状況をつねに把握していなければならない所属長たる校長が,しょっちゅう出張していて当該公署にいないことが多い,いるのかいないのかもよくわからない……,これでは,職務の遂行はおぼつかない。校長らは,教職員の勤務についてあれこれ指示する前に,まず自らの勤務実態について是正する必要がある。)

■現行の「研修承認願」の問題点
 研修承認とその実施報告に関する現行の規定はどのようなものであるか。
 本県の場合,「職務に専念する義務の特例に関する条例」(昭和26年2月15日,条例第3号)において,「研修を受ける場合」には,「職員は(中略)あらかじめ任命権者の承認を得て,その職務に専念する義務を免除されることができる」と規定されている。これは,公立学校の教員についての特例を定めた規定ではなく,県職員全部を対象とする規定である。すなわち,地方公務員法第35条の定める「職務専念義務」の特例として,地公法第39条の定める研修を受ける場合の措置である。ただし,当然ながら地公法第39条にいう研修の全部ではなく,前述の資格取得のための個人的研修などの場合(研修A)などがこれにあたる。任命権者の実施する研修の場合は職務として参加するのであるから,これには該当しない。
 教員についてはどうか。
 条例には,特段の定めはない。県人事委員会規則による特段の定めはない。県教育委員会規則による特段の定めはない。
 ずっと下位の「訓令」で,やっと言及される。「茨城県県立学校職員服務規程」(昭和41年9月1日,教育委員会訓令第4号)第23条第2項は,次のように定めている。
「教員が,教育公務員特例法第20条第2項の規定に基づき,職務専念義務免除の承認を受けようとする時は,あらかじめ研修承認願(様式第13号)を校長に提出し,その承認を受けなければならない。」
 学校を離れて研修をおこなう場合の取り扱いが,「職務専念義務の免除」を願い出る手続きとして規定されている。検討してきたように,この「職専免研修論」は誤りであるから,次のように教育公務員特例法の定めに従った規程に改めるべきである。
「教員が,教育公務員特例法第20条第2項の規定に基づき,勤務場所を離れて研修をおこなおうとする時は,あらかじめ研修承認願(様式第13号)を校長に提出し,その承認を受けなければならない。」
 ただし,現行規定中に「様式第13号」として示されている「研修承認願」の書式(日頃見なれた文書)を見る限りにおいては,職務専念義務免除の申請であるとはどこにも書かれていない。「服務規程」上は,職務専念義務免除を申請するための文書であるのだが,かかる性格の文書であることを認識していた人はほとんどいないだろう。
 今後も教特法の趣旨に則った規程改正までの当分の間,従来どおり教特法第20条第2項の規定する「勤務場所を離れて」の研修をおこなううえでの手続き文書として取り扱うことは十分可能である。

■県教育委員会による「参考例」の提示
 茨城県教育委員会は,今回,「服務規程」第23条第2項と様式第13号をそのままにしておいて,別途「研修計画書・研修結果報告書」を「参考例」として示したのであるが,いろいろと問題がある。
 県教育委員会は,「茨城県県立学校職員服務規程」の該当部分(第23条第2項,様式第13号)を改正することなしに,あらたに「研修計画書・研修結果報告書」の書式を作成し,それに従った記入・提出・保存を指示している。県教育委員会が,みずから定めた訓令による取扱いから大きく外れ,法律・条例・規則・訓令などに根拠を持たない新書式を作るのは,手続き重視を旨とする行政庁の行為としては,適切とは言い兼ねる。
 さきに見た文部科学事務次官通達によって,「計画書や報告書の提出等により,研修内容の把握・確認を徹底すること」と指示されたことに忠実に従ったために,こういう次第になったものである。文部科学省の行動は,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年6月30日,法律第162号)の定める,文部科学大臣による「指導,助言又は援助」(第48条第2項第4号)の範囲を完全に逸脱し,事実上の支配介入となっている。地方分権推進の流れに完全に逆行するばかりでなく,このような「指導,助言又は援助」手法は,「都道府県又は市町村の教育に関する事務の適正な処理を図る」という目的にも反して違法である。

■研修承認願と研修報告書の誤用の危険
 一番の問題はこの「研修計画書・研修結果報告書」がどのように使われるかである。
 一部の校長が,「例示」書式を採用したうえで,「研修計画書」に関してあれこれの記述を強く求め,場合によっては書き直しを強要したり,記述内容を口実にして勤務場所を離れての研修を承認せず,出勤を強要する等の事態も懸念される。また,「研修結果報告書」に関してあれこれの記述を強く求め,場合によっては書き直しを強要したり,記述内容を口実にして勤務場所を離れての研修の承認を事後に取り消し,年休への変更を強要する等の事態も懸念される。
 これは杞憂とはいえない。もともと文部科学省の意図はそこにあるわけだから,十分にあり得ることである。
 勤務場所を離れておこなう研修の許可・不許可に関することだけが問題なのではない。勤務場所を離れることの承認を求める届出文書の作成・保存や,研修を実施したことを記録する文書の作成・保存をおこなう場合には,届出・記録の趣旨・目的を踏まえて適正におこなわれなければならない。適切でない記述や,法令に反するような記述がされた公文書を作成・保存するようなことはあってはならない。また,任命権者である県教育委員会や所属長である校長(「本属長」)が,教員に対して,適切でない文書の作成を求めることは違法であり,許されるものではない。
 ここで,突出した悪例として,東京都教育委員会の例を検討する。

■東京都の「研修結果報告書」
 東京都教育委員会は,さきに見たように,全1日の自宅研修の禁止など勤務場所を離れておこなう研修の大幅な制限,事実上の研修禁止措置をとった。その際,結果報告書による内容上のチェックが,目的達成上重要な手法として採用された。
 すなわち,すべての研修に関して,「研修テーマごとに研修報告書を所属校長に提出する」こととするほか,たとえば,「教職員研修センターが承認した研修会」に参加した場合には,「研修会代表者は,長期休業ごとに実施した研修の報告書を代表者の所属校長に提出する。また,併せて概要版をフロッピーベースでセンターに提出する」こと,さらにまた「研修の場が特定できる写真・入場券・利用者証等」を,提出することを求めている。さらに,研修の際に「利用した書籍名を記すなど,都民から問い合わせがあった場合等に,自己の責任において証明できるようにしておくことが必要」としている。そのうえで,「研修の成果に関して問題があると思われるもの」については,校長からの「協議」を経て東京都教育庁が直接指導することとしたのである。
「研修の場が特定できる写真」の提出を求めるというのは,教員不信に立脚した不当な取り扱いであり,「教員の自主的・主体的研修を奨励・支援するよう努めること」と一応は言わざるをえなかった文部科学事務次官通達(「イ」)の立場からも大きく逸脱している。
 都教育委員会は,「都民から問い合わせがあった場合」には,研修報告書に明記された「利用した書籍名」を開示するつもりのようだが,これは,「東京都個人情報の保護に関する条例」(平成2年12月21日,条例第113号)によって保護され,開示されるべきでないとされる個人情報の開示にあたり,明らかに違法である。
 このような情報は,非開示とするだけでは足りない。情報収集自体が違法である。同条例は,「実施機関〔条例の実施主体。この場合は都教育委員会〕は,思想,信教及び信条に関する個人情報並びに社会的差別の原因となる個人情報については,収集してはならない」(第4条第2項)と定めている。したがって,「利用した書籍名」を記した研修報告書の提出を求めること自体が許されない。
 東京都立の図書館を含め,公共図書館においては,利用者個人ごとの図書利用記録や貸出記録はいかなる理由があっても開示されない。というより,図書貸出記録は,返却後はコンピュータの記憶装置から削除される。電磁気的記録,ハードコピー(紙の書類)いずれの形でも記録を作成しないシステムになっている。不必要な個人情報の収集を最初からおこなわないことで,その不用意な開示や漏洩を回避し,個人の権利の侵害を予防するのである。
 開示されることのあり得ない不要な情報を含む公文書は作成しないというのが,現代行政の基本ルールである。東京都教育委員会にあっては,都立学校教員の勤務態度についてあれこれ指示する前に,みずからの行政姿勢を抜本的に見直す必要がある。
 茨城県教育委員会は,前車の轍を踏もうとしている。我が県教委は,研修に関する文書の作成目的は,「説明責任を果たすため」としている。つまり,「研修計画書・研修結果報告書」は,開示されることを前提として作成されるのである。開示されてはならない個人情報を含む文書を作成することは,「説明責任」という目的との間で矛盾をきたす。それだけではない。「説明責任」を果たすためと称して条例上開示できない個人情報を含む行政文書を作成することは,違法行為である。
 我が県教委は,情報開示や個人情報保護に関連してこれらの問題が存在することに全然気付いていない。

■目的外使用の危険
 個人情報については,目的外使用が禁止される。目的外使用とはたとえば,校長が,所属の教員が勤務場所を離れることの承認をおこなうことを目的として作成した文書と,研修を実施したことを記録することを目的として作成した文書から,研修内容や研修態度(?)を読み取って,他の目的としての人事評価に用いるような場合である。県教育委員会が,これらの文書を当該教員を昇任させる際の判断材料とすることも目的外使用にあたる。
「研修承認願」に,勤務場所を離れることの承認を求める届出文書としての必要性の範囲を越えた記述がなされ,「研修報告書」に,研修を実施したことを記録する文書としての必要性の範囲を越えた記述がなされるようなことになれば,それはとりもなおさず,個人情報の違法な開示・漏洩や,人事評価・昇任人事等への違法な目的外使用の前提をつくることになる。収集すべきでない個人情報を記載した文書を作成してしまい,開示と目的外使用だけしなければよいなどということは許されない。収集すべきでない個人情報の収集は違法行為である。

■まさかの将来予測
 文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課の辰野裕一課長は,7月4日付けで各都道府県教委等に通達を発し,この問題での「指導の徹底」を強く求めた。この通達で,教特法20条2項の勤務場所を離れておこなう研修は「職専免研修」と,また自宅での研修は「承認研修」と呼ばなければならないこととされた。課長は,ついでに「夏季休業期間終了後に……取組状況について調査を実施したいと考えておりますので,念の為,申し添えます」と凄みをきかせた。
 当研究としては,今後の辰野課長の取り組みを予想して,本号を締め括る。
 事務次官通達の「ウ」を御覧頂きたい。勤務時間中に職務専念義務が免除され給与上も有給の扱いとされていることが,計画書や報告書の提出等により内容の把握・確認を徹底することを求める理由となっている(そうとしか読めない)。ところが,勤務時間中に職務専念義務が免除され給与上も有給の扱いとされているものは他にもたくさんある。年休つまり年次有給休暇もそうだ。
 このままいけば辰野裕一課長はこの年休に手をつけるおそれがある。「まさか!」などと言わないでいただきたい。辰野課長は,職専免を受け有給である事柄については内容把握を徹底すると息巻いているのである。
 その時,我が県教委は,「年休計画書・年休結果報告書参考例」を提示し,休暇の過ごし方を「具体的に」記載することと,県民の目を気にした適切な過ごし方をもとめることになる。 
      (以下次号)
 



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