校長会の研究 第2回「校長会の活動」   2000.5.13

■公的な「校長会」と私的な「校長会」
 「校長会」といわれているものには、県教育委員会が招集し運営する公式の会議と、任意団体である県高校長協会等の会合の2種類がある。
 県教育委員会が招集する公式の会議は2つである。1つが「茨城県公立学校長会議」で、毎年1回、県教育長が、県立学校・市町村立・私立の小中高校長を招集する。今年は4月25日の午前中に、県民文化センターで開催された。2つめの公式の会議が「県立学校長会議」で、昨年度は3月16日(異動内示等)と3月31日(辞令交付)の2回開催された。
 これ以外で校長が県教育委員会に呼び出されるのは、人事異動関係(希望調査書と一覧表の提出で1回、ヒヤリングが3回)と学力検査に関する高校長会議(1回)である。校長の出張のうち県教育委員会の命令に基づくものは全部あわせても10回に満たない(なお、新任校長には3回の校長研修講座がある)。これ以外のいわゆる「校長会」は、すべて任意団体である「茨城県高等学校長協会」ならびに関連団体の会合である。  

■「茨城県高等学校長協会」全体会
 県高校長協会の全会員が参加する会合が、年7回の「全体会」である。
 4月19日に水戸プラザホテル橘の間で開催された今年度第1回の全体会では、第1部「教育庁関係」として午後1時30分から3時まで、山田隆士高校教育課長・打越慎一人事担当課長補佐等による「挨拶・指示連絡」があり、続いて第2部「協会関係議事」として午後3時から4時20分まで、新任校長紹介・地区別会議と専門委員会別会議での役員決定・協会長等の役員決定と挨拶、さらに第3部で教育次長・新任教育庁職員の紹介・挨拶がおこなわれた。そして5時15分から7時まで瑞雲の間で歓送迎会がおこなわれた。
 以降の6回分については昨年度を例にして、県高校長協会の『會誌 第34号』の記述によって概観する。5月の第2回全体会(青少年会館)は、第1部教育庁関係のあと第2部協会関係として前年度決算と新年度予算案審議など。6月の第3回(県教育研修センター)は、第1部が教育庁関係、第2部協会関係で協会長の会務報告、「予算要望について」(後述)と、翌月の全体会について。7月の第4回全体会は、五浦観光ホテル別館大観荘で1泊2日の「学校管理研修会」として、教育庁関係指示・連絡の後、講演、全体会及び分散会での研究協議など(後述)。10月の第5回(青少年会館)は、教育庁関係、協会長の会務報告、各委員会からの報告、「人事要望について」(後述)等。12月の第6回(青少年会館)は、教育庁関係、会務報告のあと、定期人事異動方針の発表(後述)。2月の第7回は教育庁関係のあと、翌年度の年間計画と活動の重点項目について(青少年会館)。
 通常、全体会の時間は2時間程度と思われる。回数が多い割には、議事の内容はさほど豊富ではない。予算決算や役員改選、新年度方針の確認など、普通なら1回の会議で済ませるようなことに3回も4回もかけている。それはともかく、目を引くのは毎回の「教育庁関係」の議事である。
 


■出張許可の基準充足のための便法
 出張許可は校長の専決事項とされるが、一応教育庁が基準を定めている。「法令に設置根拠をもたない団体の用務は通常公務とは解されず、特に当該用務の遂行が同時に公務を行うものとなし得る場合を除き、当該用務のための旅行を公務出張の取扱いをすることはできない」(県教育庁義務教育課『旅費質疑応答集』)。端的に言って、県高校長協会の全体会は協会関係の議事だけでは公務出張とはならない。本来なら校長たちは年休を取得した上で、交通費自分持ち、日当なしで会合に出かけなければならないのである。
 県高校長協会の会合に必ず「教育庁関係 挨拶・指示連絡」が組み込まれることの理由はここにある。しかし、任意団体県高校長協会の会合参加が、「教育庁関係」議事を組み込むことで、本当に「同時に公務を行うもの」になり、出張旅費支給の対象になるのだろうか。任意団体の会合における議事内容が公務の遂行になるというのは、どう考えてもおかしい。こういうことを認めてしまうと、公務の範囲は際限もなく拡がってしまい、職場の親睦会主催の宴会でさえ公務になってしまう。 


■任意団体の会合で人事異動作業遂行
 ところで、「全体会」において、教育庁職員によって校長に対する本物の「指示」がおこなわれることがあり、しかもそれが実際に教育行政上必要にして不可欠である場合がある。さきに見た12月の全体会の第3部「定期人事異動方針の発表」である。県教育委員会の会議で決定した「定期人事異動方針」と「異動に関する希望調査書」用紙が教職員の人数分手渡されて、人事異動の作業手順が逐一説明される。こうなると、間違いなく教育庁の運用基準には合致することになるが、別のもっと大きな問題が生ずることになる。任意団体の会合で重要な公務を執行していることになってしまうのである。
 これは教職員の立場からはもちろん、国民・県民の立場からしても許容できることではない。法令に基づかない任意団体の、一般にはその存在すら知り得ない会合で、重要な行政行為が遂行される。これは現行法秩序の根幹を揺るがす由々しき事態である。人事事務作業などの必要な「指示連絡」は、県高校長協会の会合とは厳密に切り離し、全く別個に実施すべきものである。ここまで極端でないにせよ、県高校長協会の会合での教育庁職員による「指示伝達」など、そもそもおこなうべきものではない。悪弊はただちに改めるべきだろう。 


■地区校長会で顔つなぎ

 県高校長協会には、県内5学区の地域割りに沿って「地区校長会」が置かれ、それぞれ3回から8回の会合を開いている。そのうちの3、4回については各学区担当の管理主事が出向いて「県教委あいさつ・指示連絡」をおこなう。ところが、教育庁幹部の話では、「指示連絡」といっても「儀礼的なもの」にすぎないという。管理主事の臨席には、顔つなぎという別の目的もあるのだろうが、さしあたり県高校長協会の会合を「公務」たらしめるための方策になっているといえる。
 全体会や地区校長会などへの教育庁職員の出席には(12月の全体会を除いて)特段の必要性はみうけられない。任意団体の県高校長協会が公の機関である教育庁から正当な理由なく、便宜供与を引き出していると言うほかない。

■県高校長協会は「教育研究団体」か? 
 県高校長協会は、「茨城県補助金等交付規則」(昭和36年、県規則第67号)に基づき県教育委員会から毎年補助金を受けている。県高校長協会は、規約第3条で「教育上の調査研究」、「会員の研修及び職能向上」をその事業の1部としている。しかし、当たり前だが、県高校長協会は「校長」だけが会員になれる閉鎖的な組織である。この点、高教研(茨城県高等学校教育研究会)のような職種による制限のない任意加入制の団体とは対照的である。
 なにより重要なのは活動内容である。高教研の場合、実際に教育研究以外の事業は一切おこなっていないのであるが、はたして県高校長協会の場合はどうだろうか。さきに見たように、7回の全体会の議事内容は「公務」まがいの指示伝達と、活動方針・役員体制・予算決算などの「会務」処理が大部分を占める。県高校長協会が補助金申請にあたって提出した「補助事業申請書」で「研究大会及び研修会」に該当するものとして挙げている7月の「学校管理研修会」(大観荘)は、「研修会」と称しているが、内容が完全非公開で、当日使用されたテキスト類も秘匿されており、「教育研究」が現実におこなわれていることの確認もとれない状況である。

■「教育研究」からの逸脱 
  同じく「補助事業申請書」は、「研究調査」の内容として8つの委員会活動を挙げている。しかし、(1)管理委員会と(2)財政委員会の活動は、県教育委員会への要望書作成が中心であり(後述)、陳情ないし「圧力団体」的な活動であって「教育研究」とは無縁である。(3)制度調査委員会は、総合制・単位制・中高一貫などの教育行政が推進する方針に関する情報交換が中心であり、(7)給与厚生委員会は本来なら地方公務員法上の「職員団体」としておこなわれるべき活動であって(後述)、いずれも「教育研究」の範囲を逸脱している。(8)広報委員会は『會誌』編集をしているのであるが、『會誌』の内容は、「先輩校長寄稿」並びに「論説随想」として短文が十数点掲載され、ほかに協会の年間活動の項目名を列挙しただけの「活動記録」や、専門委員会の簡単な報告などの、100ページに満たない小冊子である。補助金交付の要件たる「研究成果刊行」というにはいささか見劣りがする。
 かろうじて、(4)生徒指導、(5)学習指導、(6)進路指導の3委員会が、名称の上では「教育研究」のようにも思えるが、活動内容は一切不明で、研究成果の発表もなされていない。そもそも県高校長協会という閉鎖的雰囲気の中でなければできない秘められた「研究」をすると言うのでもない限り、高教研での活動で足りるのではないだろうか。
 地区校長会についても同様で、作成していないのか、それとも秘匿しているのか、とにかく何らの記録も残されていない。刊行物・報告書などの具体的成果物が一切ないというのでは、公的資金から補助金を受けて活動する団体としては論外と言える。
 県高校長協会として「そんなことはない。教育研究はキチンとしている」というのであれば、是非資料の提供をお願いしたい。ただ、その場合でも一部で「教育研究」もしているという程度のことでは、不十分である。「教育研究」は主たる目的ではないものの従たる目的であるとか、あるいは主たる活動の合間に「教育研究」的な活動も多少行なわれるという場合、その団体は「教育研究団体」とはいわない。団体の会合への参加が公務として認められ、通常所定業務を免除され(職務専念義務免除とは違う)、旅費・日当の支給を受けるに値するには、当該団体にとって「教育研究」が唯一の目的というのでなければなるまい。そうでなければ、職専免による「研修」がせいぜいだろう。
 補助金は年額9万9,000円にすぎず、金額には県高校長協会としてもさほどの魅力は感じまい。しかし補助金支給対象となることで、「教育研究団体」としての御墨付が与えられる。そのことの方が意味が大きいのである。茨城高教組などの職員団体のおこなう「教育研究活動」への参加は、勤務時間外または年次休暇を取得した上でおこなわれ、これに対する旅費・日当の支給は一切おこなわれていないことなどを考えあわせると、県高校長協会が、よりによって「教育研究団体」として、公務出張の承認と公費での旅費・日当の支給という特別の便宜を受けているのは、ずいぶんおかしなことだと言わざるをえない。



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