校長会の研究 第3回「校長会の活動」(つづき) 2000.5.23
前回までの検討により、「茨城県高等学校長協会」は、法令に根拠がなく法人格も持たない任意団体であって県の機関ではないこと、にもかかわらずそこで公務まがいの議事がおこなわれていること、「教育研究団体」とみなされ補助金の交付対象とされているが「教育研究」以外の活動が過半を占め、実態は「教育研究団体」とはいえないことが明らかになった。
「茨城県高等学校長協会」は何で《ない》かがわかった。それでは「茨城県高等学校長協会」は何で《ある》のか?
■会の目的としての「親睦」
県高校長協会は、会員相互の親睦を深めることを第1の目的とする団体である。 県高校長協会の規約第2条は、県高校長協会の「目的」について、次のように規定している。「本会は、茨城県高等学校教育の振興と会員の職能の向上を図り、併せて相互の親睦を深めることを目的とする」。県高校長協会は、後段の目的を実現するため、その内部に「茨城県高等学校長協会の会員をもって組織」し、「会員相互の親睦を図ることを目的とする」会、すなわち「茨城県高等学校長協会親睦会」を設置している。
この「親睦会」は、県高校長協会の会費(年額1万6,000円)のほかに、1人当り年額1万6,000円の会費を徴集し、そこから餞別金(平成10年度は97万5,000円)、昼食費(40万3,275円)、歓送迎会の費用(81万3,000円)等を支出する。昼食費は、午前に開催された全体会の後に出された昼食としての弁当代である。3回分で、1個900円である。歓送迎会費は4月の全体会の後の宴会費であるが、これだけでは額が少ない。「御祝儀」の数10万円が加えられたのであろう。
県高校長協会が、「親睦会」を別に置き、餞別費、宴会費を会計上分離しているのは、県高校長協会の会費が、各学校でPTA会費や教育後援費などの「団体費」から充当されているからである。飲食や餞別などの親睦会費だけは「個人負担」として校長個人の財布から支払うようにしているのである。
■校長の飲食費に化けるPTA会費
ところが、この配慮も結局のところは、ゆきとどかない。2000年4月13日、下館市にある三の丸ホテルで県高校長協会の下部組織である県西地区校長会(会長=稲見庄二下館一高校長)の「総会・研究協議会」が開催された。そこで承認された同地区校長会の平成11年度決算書によれば、収入は会費40万円(1人あたり1万円)のほか、協会会計からの補助が4万円で、支出の方は事務費と雑費は3万円足らず、大部分が慶弔費(餞別と見舞金で、合計27万5,000円)と会議費(29万2,960円)である。この会議費は、「研修会」名目の地区校長会が開催された下妻の岡崎屋、下館のホテル新東、グランドホテルつたや等での飲食費に充当されたものと思われる。(内訳につき照会したところ、稲見会長は回答を拒否した。)
PTA会費や教育後援費から支出される県西地区校長会会費と、同じくPTA会費等から支払われ、「教育研究団体」としての県費補助金も受けている県高校長協会会計からの補助金の大部分が、慶弔費や飲食費として費消されている。県レベルでは分離している親睦会会計を地区レベルでは分離せず、どんぶり勘定にしているため、結局のところ各校のPTA会費・教育後援費が校長らの餞別や飲食代金に化けてしまうのである。
教諭などの出張の場合、昼食代金は日当(日額2,200円)に含まれているとして、県費からはもちろんPTA等の団体費からも一切支給されない。その一方での、このような会計処理は、社会的に許されないものである。
■教育庁職員との「親睦」
県高校長協会が親睦団体であるといっても、それは協会の会員たる校長相互の親睦促進に限ったことではない。前回みたように、4月の県高校長協会全体会の議事の第3は「教育庁新任者紹介」、議事の第4は「歓送迎会」だった。県高校長協会の会員としての公私立高校・特殊教育諸学校の校長だけでなく、高校教育課・特殊教育課の職員を中心とする教育庁の新任者・留任者が整列して、校長たちに紹介されるのであり、したがってまた、宴会には当然教育庁職員も参加する。県高校長協会の「親睦」機能は、校長たちと教育庁職員との酒のうえでのつきあいの促進にまで及ぶ。
これは地区レベルでも同様である。地区校長会の会合への学区担当管理主事の出席には、公務の体裁を与えるための便法としての目的のほか、「顔つなぎ」すなわち広義の「親睦」の意味があることは前回見た通りである。年度当初の「総会・研究協議会」後の歓送迎会には、担当管理主事も当然列席し、「あいさつ」の機会も与えられる。(その後、40代なかばの管理主事が、並みいる校長や退職校長らに、1人ずつお酌をして回るのかどうかは知らない。)
■勤務条件の維持改善をめざす活動
1999年11月15日、県教育研修センターで、県高校長協会の給与厚生委員会が、「教職員の退職金について」ならびに「教職員の年金等について」という2つの講義からなる「拡大研修会」を開催した。講師をつとめたのは、県教育庁義務教育課給与担当係長と福利厚生課年金係長である。「教職員の」とはいうものの、要するに定年を間近に控えた校長たち自身の最大の関心事たる退職金・年金についての勉強会である。
校長たちは、賃金に対して並々ならぬ関心を寄せているのであるが、彼らは、公費で出張旅費の支給を受けたうえで、無料で借りた県の施設に集合し、公費負担で出張してきた県教育委員会の担当者を講師にして、自分たちの勤務条件に関する私的な学習会を開催していることになる。このような私的目的での公費の使用はおおいに問題である。
「教育研究団体」として指定され県から補助金を受けている団体が、勤務条件の維持改善を図ることを目的とする勉強会を開催していることになるが、賃金など勤務条件に関する勉強会をおこなう団体としては、「教育研究団体」はいかにも相応しくない。校長たちが、団体としてこのような活動をおこなおうとするなら、「職員団体」を結成したうえでおこなうのが順当だろう。
■「職員団体」とは何か
「職員団体」については、多少説明が必要かもしれない。
職員(公立学校の教職員など一般職の地方公務員のこと)に対しては労働組合法は適用されない(地方公務員法第58条)。公立学校の教職員は、労働組合法の規定する「労働組合」を結成したり加入したりすることはできないのである。地方公務員法は「労働組合」に代えて、「職員団体」すなわち「勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体」について規定している(第52条)。「職員団体」は人事委員会に登録されることで、当局(県立学校教職員の場合には、県教育委員会)との交渉権を獲得するほか、法人となることができ、さらに団体に専従役員を置くために、役員の休職の許可を得ることができるようになる。
もちろん、労働組合法等の適用除外に関する地方公務員法の定めは公務員労働者を不当に差別するものであり、憲法上許されない。このような地方公務員法の規定は廃止し、公務員労働者の労働基本権の回復がはかられるべきである。茨城県高等学校教職員組合(兼田昭一委員長)は、法的には「職員団体」として県人事委員会に登録され法人格も取得しているのであるが、社会的には事実上の「労働組合」としての活動をおこなっている。
■管理職員等による「職員団体」
ここからが肝要である。
労働組合法にもとづく「労働組合」と、地方公務員法にもとづく「職員団体」には、重大なちがいがある。「労働組合」の場合、会社役員や管理職員など「使用者の利益を代表する者」は組合に加入することはできない。いっぽう、地公法にもとづく「職員団体」の場合、管理職員と管理職員でない者とが同一の職員団体を結成することはできないものの、管理職員だけで職員団体を結成することができる。
校長などの管理職員が「職員団体」を結成することは、地方公務員法によって保証された権利であり、おおいに活用されるべきものである。校長らが、給与・退職金・年金など自分たちの勤務条件には一切頓着しないというのであれば別であるが、現に茨城県高校長協会は内部に「給与厚生委員会」のような勤務条件に関する専門機関を設置してまで熱心に活動を展開している。地方公務員法の規定からすれば「管理職員等の職員団体」の結成が期待されているといえる。
勤務条件の維持向上のための活動は「教育研究団体」を標榜する協会が、おこなうべき筋のものではない。「職員団体」を結成したうえでおこなうのが地方公務員法の趣旨に適合することであるし、社会的な承認もえられる。県高校長協会としては、勤務条件の維持向上をめざす活動を分離独立させて、これに「茨城県高等学校管理職員組合(仮称)」の形を与えて規約・組織を整備したうえで県人事委員会に登録し、晴れて地公法上の「職員団体」としておおいに活動を展開したらいかがであろう。
その場合、事務所を学校の中に置いたり、事務職員を1名加配させて県高校長協会の実務に使役したりすることはできなくなるから、どこかのビルに1室借用して事務所を確保し、組合費で事務員を雇い入れなければならないだろう。もちろん、「茨城県高等学校管理職員組合(仮称)」の会合に参加するのに出張命令など出せるはずはないから、県費から出張旅費・日当は支給されない。
「管理職員組合」の会合は勤務時間外におこなうか、または年休を取った上で参加することになるだろう。そうなれば、年休の日数に限りがあるのだから、県高校長協会関係の会合に年間30日以上、幹部ともなると50日も出かけていた今までのような活動は見直して、会議の回数も減らさねばなるまい。いちいち水戸に集まって、2時間程度で終わるような会議を開いたりすると組合員のひんしゅくを買うだろう。茨城県教育委員会も、今までのように会場をタダでは貸してはくれまい。専従職員の給与、会場費、交通費などを賄うには組合費もかなりの額になるだろうし、もはやPTAにツケまわしするわけにもゆくまい……。
いろいろ負担も増えるが、そのかわり今後は、「公務みたいなことを言って、じつは私的なことのために出張していたのか?」、「校長の地位を利用して勝手なことをしてきたのはおかしい」、あるいは「法律に根拠のない任意団体の活動にそんなに力をいれてよいのか」などと、部下たる者たちからいちいち非難がましいことを言われることもなく、心置きなく活動に専念できる。賃金問題などでは茨城高教組など他の職員団体と共闘することだってできる。そう考えれば、あながちマイナスばかりでもあるまい。
余計なお世話かもしれないが、一度真剣に県高校長協会の「拡大総務会」あたりで検討してみてはいかがであろうか。(つづく)