校長会の研究 第11回 校長会と教頭会(その2)
レクリェーションと公務災害補償
   2001.7.10

■校長会の構造改革
 校長会が「親睦団体」からの脱却を目指して組織改革に乗り出した。
今年度はじめの各地区校長会の会合で,校長会規約の改正がおこなわれた。たとえば,県北地区校長会(会長=秋山和衛太田一高校長・留任)は,4月12日,ホテルサンガーデン日立で総会を開催し,規約第2条(目的)の「本会は,県北地区高等学校教育の振興と会員の職能向上を図り,あわせて相互の親睦を深めることを目的とする。」とあったところを,「本会は,県北地区高等学校教育の振興と会員の職能向上を図ることを目的とする。」と後半部分を削除したうえで,第3条(事業)から,第4項の「会員相互の懇親」を削除し,さらに第8条の慶弔規定を全面削除した。

■ 親睦団体としての校長会
 本研究は昨年5月,高校長協会は法令上の根拠のない任意団体であること,標榜するような「教育研究団体」としての実質を欠いていることを明らかにしたうえで,任意団体の会合において本来おこなわれてはならない教育庁高校教育課職員による「指示伝達」や,勤務時間中に出張したうえでおこなうことの許されない「職員団体」的な活動がおこなわれていることを指摘した。そのうえで,校長協会は事実上「親睦団体」であるにすぎず,しかも任意団体の活動のために公費から違法不当に出張旅費・手当の支給を受けている事実を明らかにした(本研究第2回,第3回)。
今回の規約改正は,本研究の指摘に対する反応なのであろう。しかし,校長協会が「目的」や「事業」から「親睦」をはずしてしまうと,「指示伝達」や「職員団体」的活動など本来排除すべき分野を除けば,結局のところあとにほとんど何も残らないことになる。校長協会は,みずから「無」になろうとしているのであろうか。

■親睦会の独立・併置
 校長協会は会の活動から,「親睦」を本気で追放しようというのではない。
規約改正と同時に,県北地区校長会は,「会員相互の親睦を深めることを目的」(規約第2条)とし,「新入会員の歓迎及び退職会員の送別会 会員相互の慶弔及び見舞等 その他,必要と認める事項」(第3条)を「事業」として実施する「県北地区校長会親睦会」を校長協会とは別に新設した。会員は県北地区校長会の会員で,役員はすべて同会の役員の充当職である。
 化けの皮が剥がれて,風通しの良くなり過ぎた任意団体=校長協会が,あわてて「親睦会」を形式的に分離独立させただけのことである。親睦機能を全廃したのではなく,あえて親睦活動部分を独立させ,「本体」の校長協会に併置したのであり,むしろ校長会にとって「親睦」がいかに欠かすことができないものであるかを,如実に示す結果となった。これでは,親睦中心に活動してきたことを自白したも同然である。
 いささか時間がかかりすぎるとはいえ,本研究の批判にいちいち忠実に反応する校長協会は,つぎに「職員団体」としての「茨城県県立学校管理職員組合」の分離独立に踏み切るかも知れない。しかし,「職員団体」となると,地方公務員法や県人事委員会規則等の法令に基づいて設立運営されなければならず,何の規制もない校長会のような任意団体と同様に,いきあたりばったり成りゆきまかせで運営することは許されない。
 間違っても県立学校の校長全員をそのまま組合員にしたり,職員団体の役員に校長協会の役員を充てるなどのことはできない。いざ県人事委員会に届け出て規約の不備で却下されたりしないよう,十分準備したうえで臨む必要がある。

■研修と公務災害補償
 さて,今回も「教頭会法規演習」について,検討を続けよう。
前回取り上げた「研修」問題において,「教頭会法規演習」は,放課後に自宅研修をおこなう場合,公務災害補償の対象とならないとの見解を示し,研修制限の論拠のひとつとしていた。これは,「職務専念義務」を免除されておこなう自宅での「研修」は,「公務」ではなく,したがって公務災害補償の対象とならないという主張である。
 もっともらしい論理だが,前回検討したように,そもそも「研修」は勤務の一形態なのだから,「職務専念義務免除」による研修という概念自体が矛盾していて存在の余地がない。前提が誤りである以上,この論法は成り立たない。

■研修と通勤災害
 ところでこれに関連して,昨年度から今年度にかけて,多くの校長が職場の教員に「研修」を制限する旨の指示をおこなったのであるが,その際幾人かの校長は,自宅研修のために勤務時間終了以前に帰宅する際の交通事故は,公務災害補償の対象にならないと発言した。勤務先から自宅までの移動行為は「通勤」にあたらず,したがってそこでの事故は公務災害の一種としての通勤災害に該当せず,補償(療養補償,後遺障害補償,遺族補償等)の対象とならない,との趣旨なのであろう。これは,とんでもない間違いである。
 1時間単位で年次有給休暇や特別休暇,療養休暇,「育児休暇」等を取得し,1日の途中から出勤する場合,あるいは逆に,いったん勤務した後に,1時間単位で年休等を取得して退勤する場合,自宅と職場間の移動行為は当然,「通勤」に該当する。「研修」それ自体は勤務の一形態であるが,仮に「法規演習」のいうように「職務専念義務免除」による「研修」だとしても,移動行為は「通勤」に該当する。「通勤」中の災害は通勤災害として公務災害補償の対象となる。
 校長らは,「研修」を抑制すべく,警告のつもりでこういうことを言ったのであろうが,公務災害補償に関する自分たちの無理解を暴露する結果になった。

職場レクリェーション
 1999(平成11)年の教頭会法規演習の第2問は,職場でのレクリェーションとそこでの公務災害補償の問題であった(『平成11年度 演習報告』14〜20ページ)。
「県立A高校では,中間考査最終日の午後2時から,グランドで職員の親睦団体主催の球技大会を開催したところ,校長へ『教員が午後2時頃からソフトボールをやっているが,A高校の勤務時間はどうなっているのか,今から県の教育委員会へ事情を聞いてみるつもりだ。』との電話があった。校長はどう対処したらよいか。また,この大会でB教諭はアキレス腱を断裂する全治1カ月の怪我をした。B教諭は公務災害となるか。」
 模範解答は次の通りである。まず,「これまで教特法第20条2項に基づく研修または慣習としてレクリェーション等を勤務時間内に実施することが多かったと思われるが,一般企業のレクリェーションが休日に行われていることを考えれば,今後は校内レクリェーション等を勤務日に実施することは無理であろう。世間から誤解を受けないようにするためにも,年休をとって勤務日に実施するか,土曜日の午後,または休日に実施するのが妥当と考えられる」との考え方にのっとって,校長に「慎重なしかし毅然とした対応」を求める。
 電話主に対しては「事実を隠したりせず,きちんと説明して理解を得ることが必要」としたうえで,教職員に対しては「臨時の集会を開き,電話があったことについて説明を行い,冷静な対応を依頼」し,「地区担当〔高校教育課の管理主事〕に直ちに報告を行い指示を受け」,「マスコミの取材も予想されるため,取材の窓口を一本化しておき,取材があったら誠実に対応する」ように求める。
 そのうえで,「これまでも本属長(校長)または親睦団体の長が計画実施したレクリェーションでの負傷は,公務上の災害と認定されていないようである。また本レクリェーションが『職専免研修』で実施されたとすると,当然公務遂行中の事故ではないことになる。したがって公務災害の認定は受けられないと考えざるを得ない」ので,今後は「期日限定の保険を掛ける」べきだと締め括る。

■地公法42条による厚生事業
 問い合わせ電話一本で,いきなり「臨時の集会」や「窓口一本化」が必要だと言い出すようでは,『演習報告』の発行責任者たる茨城県教育委員会と茨城県高等学校教頭会の危機管理能力はまことに心許ない。この調子では,いざ本当の大事が起きた時には,パニック状態に陥ってオロオロするだけで,有効な対処は一切期待できない。
 職場レクリェーションを教育公務員特例法第20条第2項(「教員は,授業に支障のない限り,本属長の承認を受けて,勤務場所を離れて研修を行うことができる」)に基づく「研修」とするところに根本的な誤りがある。同条の趣旨を職場レクリェーションに結び付けるのは論外である。それに学校のグランドでは,「勤務場所を離れて」いない。
 職場レクリェーションは,地方公務員法第42条(「地方公共団体は,職員の保健,元気回復その他厚生に関する事項について計画を樹立し,これを実施しなければならない。」)に基づいて実施すべきものである。
 地公法42条に基づく厚生制度としては,本県の場合,「互助会」の事業や財形貯蓄,「ライフプラン」事業などが実施されている。このうち県が実施主体となっているレクリェーション事業としては,県職員の場合には,各課対抗野球大会(5月7月),各課対抗バレーボール大会(7月8月),職員球技大会中央大会(9月),各課対抗バドミントン大会(11月),スキー事業(1月),各課対抗卓球大会(2月)がある。
 ところが昨年度まで,県立学校の教職員について県(県教育委員会)が実施主体となるレクリェーションは,県立学校事務職員・技能労務職員を対象とする「県立学校事務職員等厚生大会」(7月)だけであった。(「ゴルフ大会」と「囲碁大会」は互助会が実施する事業であり,県教育委員会によるものではない。)
 県立学校の教諭等についてレクリェーション事業を一切実施してこなかったのは,地公法42条違反である。茨城県教育委員会の違法行為責任は重大である。

■地公法42条による職場レク
 『演習報告』の的外れぶりはすでにあきらかであろう。茨城県教育委員会は,地公法42条に基づき,学校に勤務する教職員が自由に参加できるレクリェーション事業を,企画し実施する法律上の責任を有するのである。
 この地公法42条に基づく職場レクリェーションは,勤務時間外に実施することもあるが,勤務時間内に実施することも当然可能である。その場合,レクリェーション自体は職務(公務)とはいえないから,服務上の措置として「職務専念義務の免除」が必要となる。(勤務時間外であればもともと職務専念義務がないのであるから,「職務専念義務の免除」が必要となるのは,あくまで勤務時間内に実施されるレクリェーションの場合である。)

■地公法によるレクと公務災害補償
 そうなると,このレクリェーションにおいて負傷事故などの「災害」が発生した場合に,公務災害補償がどうなるかが,当然疑問になる。
『演習報告』は,「本レクリェーションが『職専免研修』で実施されたとすると,当然公務遂行中の事故ではないことになる。したがって公務災害の認定は受けられないと考えざるを得ない」と,わかっているかのようなことを言っているが,これも間違いである。
 地方公務員災害補償制度の運用にあたっている地方公務員災害補償基金(国の特殊法人)は,内部通達の形で,地公法42条に基づき任命権者(県立学校教職員にあっては県教育委員会)が単独または共同で実施するレクリェーション参加中の負傷については,これを公務上の災害として補償の対象とする旨,定めている(昭和48年11月26日地基補第539号各支部長あて理事長通達,及び同日地基補第542号各支部事務長あて補償課長通達)。この場合,勤務時間外のレクリェーションであっても,あるいは勤務時間内に「職務専念義務」を免除されて参加した場合であっても,公務災害補償の対象となる。とうてい公務とはいえないレクリェーションに,しかも(勤務時間内であれば)「職務専念義務」を免除されて参加しているなかでの事故が,どうして「公務災害」なのかというと,つまるところ,当該レクリェーションが「任命権者の支配管理の下に行われた」ことによる。
 もし死亡事故が起きた場合,公務災害補償制度によって生前給与の6割程度の補償金が年金として遺族に支給される。
 県教育委員会と教頭会は「期日限定の保険」を助言するが,損害保険会社の用意する「レクリェーション保険」の死亡保険金は数百万円どまりである。公務災害補償制度によらずして,1億円を超える保険金を準備することなど到底不可能である。

■模範解答
 平成11年教頭会法規演習第2問の本当の模範解答は,次のようになる。
「校長が,当該レクリェーションを,職場の親睦団体主催で開催させたことは誤りである。
校長は,あらかじめ県教育委員会に届け出てその許可を得たうえで,地方公務員法第42条によるレクリェーションとして実施すべきであった。そうすれば,電話主には,本レクリェーションが,地方公務員法の定めにより実施されていること,これにより公務能率の増進が期待できることを説明し,理解を得ることができるだろう。また,B教諭の怪我は公務災害補償の対象となる。
 したがって,かかる措置を怠った校長は責任を免れず懲戒処分が相当である。
 蛇足ながら,県教育委員会においても,教育長,教育次長,高校教育課長,福利厚生課長らが管理責任を問われることになろう。教育委員にあってもみずからを処分せざるを得ないだろう。」

■土浦工業高校職場レク事件
 的外れで間違いだらけの「法規演習」が実施されていることは,そこで多額の公費が費やされていることひとつをとっても放置できない問題である。
 そして,教頭会法規演習の誤謬は,現実のものとなった。
 1999(平成11)年5月24日正午頃,県立土浦工業高校(高野驩一校長=現在下館工高校長,細野賢治教頭=現在水戸工高教頭)の校内レクリェーション大会において,体育館でバドミントンの試合をしていた55歳の男性教諭が右脚アキレス腱を断裂する3か月の重傷を負った。この日は一学期中間考査の第1日目であり,当該レクリェーションは同校の安全衛生委員会が主催したものであった。
公務災害認定請求を受けた地方公務員災害補償基金茨城県支部(支部長=橋本昌県知事)は,2001(平成13)年2月7日付けでこの件を公務外の災害と認定し本人に通知した。
 公務外とした理由は,「『平成11年度茨城県教職員等ライフプラン実施計画』をみると,本大会のような『各学校の事情にあわせて実施されている要項に基づくレクリェーション』は,当該計画に位置付けられていないことから,本大会の計画・実施が地公法第42条の規定に基づいて行われたものとは認められない。また,要項においてレクリェーションの実施権限を学校長に委任するとする明確な規定も認められない」というものであった。
 当該レクリェーションが安全衛生委員会の主催によるものであり,要するにその議長である校長の監督下におこなわれたものであることを認めた上で,任命権者(県教育委員会)が地公法42条に基づいて実施するレクリェーションであるとの形式が整っていなかったことを唯一の理由として公務外としたのであった。
 法令についての無知から,職場レクリェーションの正当な位置付けを怠って漫然と放置したうえ,そこで発生した負傷事故について公務災害認定を不可能にする結果をもたらし,被災職員らに多大の損失を与えた県教育委員会,県高校長協会,県高校教頭会の責任は極めて重大である。

(以下次号)



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