校長会の研究 第5回 強制異動方針と校長会(その2)   2000.11.8

■県西地区校長会の規約改正
 校長会が自己改革に着手した。
 10月3日、県高校長協会県西地区校長会(会長=稲見庄二下館一高校長、会員40人)の「研究協議会」が、下妻市の岡崎屋旅館で開催された。議題のひとつとして「会の運営について」が取り上げられ、県西地区校長会規約の改正と、平成12年度予算の変更が議決された。
 規約の第8条(「本会の会費は各校年額10,000円とし、年2回に分けて納入する。」)の次に、第2項として「年会費のうち、8,000円は特別会計とする。」という条文が追加された。そのうえで、4月13日の総会で決定された予算が年度途中で破棄され、新たな予算と規約改正により分離された特別会計の予算が決定された。
 これは、PTA会費等によって充当される県西校長会会費が、旅館での飲食費(名目は「会議費」)や退職者への餞別に費消されることについて本研究が批判したことを受けての改革であった。   

■親睦活動のための特別会計
 この改正の結果、1人当り年会費2,000円でまかなわれることになった県西校長会の運営費は、繰り越し金と県高校長協会会計からの配分金を合わせても年間総額で21万円に大幅ダウンした。一方で飲食と餞別に充てられる「特別会計」は繰り越し金を加え、年額67万円に及ぶ。
 県西校長会としては、ルーズだった金銭の取り扱いを変更し身綺麗にしたつもりなのかも知れない。ところが、経費の大部分を親睦のための活動に注ぎ込んでいる実態が浮き彫りになり、校長協会が親睦団体に過ぎないことを露呈する皮肉な結果になった。

■根本問題の先送り
 問題になっているのは、親睦目的の私的団体の会合に勤務時間中に公務出張し、公費から旅費・日当の支給を受けること、加えて様々の活動費を各校のPTA会計に転嫁していることの当否なのである。
 本体部分の会費2,000円にしても、今後もPTA会計から支出させることは到底許されない。飲食費や餞別の費用まで保護者に負担させて来たことはまったく論外であって、そこのところにだけ手をつけるポーズをとり、基本的には旧態依然の活動と会計処理を続けるというのでは、誰も納得しない。
 特別会計の8,000円が個人負担となるのかどうかもあやしい。これをPTAに転嫁してしまっては改正の意味がないのだが、議案にはそのことは一切明記されていないうえ、第8条第1項の「各校年額10,000円」という字句も改正されていない。要するに1つの会計の内部を2つに仕切って表面的に取り繕っただけで、問題点はそのまま温存されているのである。 


■校長会の「ペーパーレス化」
 茨城県高等学校長協会(会長=長瀬宗男土浦高校長、会員151人)は、県情報公開条例によって協会の活動内容が公開されてしまう現状を深く憂慮し(協会幹部「このままでは丸裸にされてしまう」!)、このほど対応策を樹立した。
 10月11日、水戸三の丸ホテル2階「納言の間」で県高校長協会全体会が開催された。この日の目玉は、橋本昌県知事の講演と、ひきつづいて同ホテル2階の「若樹の間」でおこなわれるパーティー「知事を囲む会」(会費7,000円)であったが、もうひとつの重要議題が「平成13年度人事要望」の決定であった。校長会は、この「人事要望」の内容が情報開示制度によって公開されるのを阻止するため、文書の「ペーパーレス化」に踏み切った。 


■IT革命の時代

 県高校長協会の実行した「ペーパーレス化」は、文書の電子ファイル化のことではない。協会はこの「人事要望」については切の文書を作成しないまま、全体会の場で口頭で報告して承認を取り付けたうえで、県教育委員会に口頭で申し入れることを決定した。
 文書の追放を目指す、県高校長協会のIT(Information technology)革命の行き着く先は、協会の秘密結社化である。とはいえ、協会活動のための年間出張日数が般会員でも30日以上、幹部ともなれば60日以上にも及び、しかもその全部に対して公費から給与・旅費・日当が支払われる現状では、自分達の活動を秘密にしようとするのは無理な話である。
 「出張」と「旅費」は、県高校長協会にとっての「アキレス腱」であり、いずれはその「精算」をしなければならない日がやって来るだろう。それまでの間、県高校長協会はこの問題に目をつぶって走り続けるつもりらしい。
 しかし、今回みずから開始した「ペーパーレス化」が、すでに協会組織の内部に深刻な混乱を引き起こしている。

■「人事要望」の作成から提出まで 
 
今年度の「人事要望」の作成・提出の経過は次のとおりであった。
 (1)県高校長協会管理委員会(委員長=秋葉宗宏下妻高校長)が、全協会員を対象に「人事」に関する記述式アンケートを実施することを決定し、519日の校長会第2回全体会でアンケート用紙を配付。
 (2)管理委員会は、その集計結果を「平成12年度 教員の人事に関する調査 集計結果(秘)」にまとめ、724日・25日の両日、ひたちなか市のホテル・クリスタルパレスで開催された「学校管理研修会」(県教育委員会主催)で配付。
 (3)この「集計結果(秘)」を受けて管理委員会が作成した要望原案に基づいて、106日、協会の拡大総務会が開かれ、全体会への提案内容について決定。
 (4)1011日の校長会第3回全体会で、拡大総務会が「平成13年度人事要望」を口頭で提案、全体会はこれを承認。
 (5)1024日、県庁において、協会長・管理委員長らが県教育委員会に対して、「平成13年度人事要望」の口頭での申入れを実施。

■秘密アンケート
 まず、(2)の「平成12年度 教員の人事に関する調査 集計結果(秘)」について見てみよう。強制人事異動(県教育委員会と校長会はこれを「グループ異動」という)について、校長たちは次のような要望意見を出した。
 まず「@異動先について」の項目では、制度ないし運用の改善を求める意見としては、「希望の範囲内で」とする者が8人、さらに踏み込んで「希望校を記入させては」とする者5人、「グループ分けを再検討してほしい」とする者5人、そして「勤務意欲が喪失しないような配慮を」と「学校運営を考慮した配置を」が各1人である。この項目で強制異動方針の推進・拡大をもとめる意見は、「希望は聞かないはず」、「5グループを選ばせては」、「15年対象者は希望でなく全県的に」(!)とする意見が各1人に過ぎない。その他をあわせてこの項目に記入したのは県立高校長111人中32人であった。
 「A内示について」の項目では、「一般異動と同じ期日がよい」とする者4人(その他17人)。
 「B例外措置について」の項目では、「なくしてほしい」「極力避けてほしい」とする意見があわせて26人から出される一方で、「やむをえない」が10人、さらに「芸術・福祉を特例扱いに」が5人いる(その他11人)。   

■強制異動方針の拡大要求
 「Cその他」の項目では、「農・工・商の教諭等(実習助手・養護)にもルールの適用を」とする者が10人いる(その他11人)。
 7年前の1993(平成5)年、同じく管理委員会の手で実施されたアンケートでは、回答者128人中91人(71%)が強制異動方式の導入に賛成し、協会は強制的人事異動制度導入に向けて運動を開始した。強制異動が実施された1995(平成7)年度以降、協会は「人事要望」において一貫して全教科教諭・他職種への適用範囲拡大を要求してきた。
 あれから7年が経過し、過激ではあるが現実味のない範囲拡大論を口にする校長は、いまや、わずか10人(9%)の少数派にすぎないのである。

■強制異動への批判的意見
 他県の一部で実施されている「強制異動」においては一定年数での異動をおこなうものの、手続き上は特段不利な扱いはおこなわれない。ところが本県では、ことさらに異動希望先の申告方法や打診・内示での不平等取扱い(地方公務員法違反)をおこなう懲罰的制度となっているところに重大な瑕疵があり、さまざまの教育上の弊害をもたらす非教育性が大きな問題となっている。
 県高校長協会は、これまで自由民主党県議会議員団と呼応して無理な横車を押し、本県教育におおきな災厄をもたらして来た。しかし、アンケートから判断すると、いまや協会内では強制異動推進・拡大を主張する過激派は退潮し、冷静に事態に対応しようとする意見がすこしずつ出されるようになったのである。 

■強制異動対象拡大の「要望」
 それでは、上の経緯中の(5)、協会が県教育委員会に提出した「人事要望」はどうなったか。
 協会のIT革命により、「人事要望」は「文書」としては存在しない。内容について協会幹部らに問い合わせたところ、「今年提出する要望は、昨年のものと同じである」とのことであった。しかし、「文書」として確定していないのでは、それが昨年のものと「同じ」であるか否か、はっきりしないはずである。それに、もし協会が言うように「昨年と同じ」だとすると、おかしなことになる。
 昨年提出された「人事要望」においては、「平成7年度から実施された人事異動方針に基づく教職員の配置換えは、教職員の異動に対する意識に変化をもたらし、人事の停滞や硬直化を改善し、学校の活性化に寄与するなど、概ね好結果が得られ、同方針の一層の定着化がみられました。」としたうえで、県教育委員会に対して「人事異動方針については、早期に農業・工業・商業担当教諭および養護教諭・実習助手にも適用するなど、より適切・妥当なものに改善するよう努める」ことを求めている。(この要求項目は、1995〔平成7〕10月24日提出の「人事要望」以来、同一である。)
 アンケート結果を見ると、「希望校を記入させては」、「(例外措置も)やむをえない」、「芸術・福祉を特例扱いに」など、おそらく強制異動の実行を請け負わされ苦労した校長からであろう、強制異動の問題点を指摘し要項改正や運用緩和を求める冷静な意見が出される一方で、適用範囲拡大論などは急激に退潮し、むしろ少数派になっている。こうした状況のもとで、「農業・工業・商業担当教諭および養護教諭・実習助手にも適用」することを協会の要求項目とするのは、あまりにも一面的・恣意的であり、アンケート結果との整合性がない。 


■協会幹部の秘密会議
 ところで「今年の要望事項は昨年と同じ」と言うのであれば、昨年の要望書はすでに開示されてしまっている以上、今年の要望についてあえてペーパーレス化する必要はないはずである。協会は、何かを隠しているに違いない。
 調査をすすめる中で、経緯の(3)の内状が明らかになった。10月6日、水戸一高内の同窓会館(「知道会館」)に集まった県高校長協会拡大総務会のメンバーは、「人事要望」の原案を決定し、強制異動に関連して、今年度新たに次の点を要望することにした。すなわち、@例外措置をおこなわないこと、A強制異動の対象を15年より短縮すること、B55歳以上の者も対象とすること、の3点である。
 さきのアンケートの結果では、@例外措置については、反対26人に対し、例外もやむなしとするのが10人、「芸術・福祉を特例扱いに」が5人だった。このうち、片方の反対論が県高校長協会の要望とされ、他方の例外措置容認論や、芸術・福祉科教諭を対象から外すべきとする制度改善論は無視されてしまった。
 アンケートでは、A「55歳以上でもグループ異動を適用すべき」とする者は2名、B「15年を10年に」と年数短縮を主張する者はわずか1名である。ところが、これらの絶対的少数意見が、県高校長協会としての要望に昇格してしまったのだ。
 
■IT革命による組織の混乱
 大方の意見というわけでもないごく一部の意見が、まるで県高校長協会の総意であるかのようにして県教育委員会に提出された。しかも、肝心の「人事要望」文書が存在しないため、こうした経緯について協会の一般会員が正確に把握しているか、おおいに疑問がある。
 協会のIT革命=ペーパーレスは、さしあたり本研究を意識した情報遮断策であった。しかし、このIT革命はむしろ組織内の情報経路の遮断、意思疎通の妨害、一部幹部の独走、合意形成の頓挫という予期せぬ結果を生み出してしまった。新任の或る校長は「全体会で何が話されたのかよく理解できなかった。今年の人事要望で何が変更されたのか、よく判らない。」と言っている。
 誤った組織防衛策が、県高校長協会を内部から浸蝕し始めている。

 次回は、「校長会の人事」について研究する。そのメカニズムが明らかになる時、なにゆえ県高校長協会幹部が今回見たように一般会員から遊離し独走する傾向を示すのか、その理由が解明されるであろう。 



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